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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.25[08:53]
「皆、楽に――」
 頭を垂れる七天に、天王から苦笑が返ってくる。
 その美声に促されるようにして、年長者である雷天・瑠櫻がまず立ち上がる。他の三人も面を上げ、彼に倣った。
「急な招集をかけて、すまないね」
 天王が疲労の影を漂わせた声音で告げる。
「もう用件は解っていると思うけれど、紫姫魅の件についてそろそろ決着をつけねばならない」
 天王の静かな声に、皆が一斉に頷く。
 それぞれ紫姫魅に対する感情は違えど、彼の引き起こした不毛な乱に終止符を打ちたい気持ちは皆同じだった。
「風凪城はどうなっている?」
「あそこには、念のために鞍馬を置いてきました。ですが、風の一族ではないゆえに統率力等、少々難点もあるかと……」
 炎天・綺璃が微かに表情を曇らせる。
「――鞍馬天を?」
 思いがけない対処に、天王は自然と疑問を口にしていた。
 綺璃がいたく大切にしている妃を己の手元から離し、風凪城の統制・警護を任せるとは考えもしなかったのだ。
 加えて、あの強気で頑固な鞍馬が素直にそれを承諾したことが意外でもあった。
「非常事態ですので。それに、鞍馬には高い戦闘能力が備わっています。あれは長年の平和惚けで闘神としての本能が薄れ、少々闘い方を忘れているようですが――本気になれば、誰よりも頼もしい守護闘神になるはずです。もしかしたら、俺ですら太刀打ちできないかもしれません」
 最後に苦々しく笑い、綺璃が肩を聳やかす。
「彼女は、猛将・阿摩天の愛娘だったね。確かに、戦闘能力に関しては何も問題はない」
 阿摩天は二百年前に天王に叛旗を翻し、討伐された神ではあるが、その戦闘力と統率力は類い稀なものであった。娘である鞍馬にも、それらがしっかりと受け継がれているのだろう。
「天王様、《水鏡》を視たところ――黒点は紫毘城ではなく、《妖魔の森》にあるのですが……?」
 天王と綺璃の会話に区切りがついたところで、水天・水鏡が躊躇いがちに発言する。
 彼女の報告に、天王以外の三者は等しく驚きを示した。
 水鏡の言葉は、彼らにとって大いに意想外のものであったのだ。
 全ての元凶は、紫姫魅天にあると信じて疑わなかったのだが、真実と未来を見極める《水鏡》はそれを否とし、《妖魔の森》に因があると判断を下しているのだ。
《水鏡》が裁決を違えることはない。
 そうだとすれば、やはり諸悪の根源は《妖魔の森》なのだ。
 ならば何故――
 紫姫魅は如何なる所以があって乱心したのだろうか?
 何か《妖魔の森》と関連があるのだろうか……。
 困惑せずにはいられない。
 彼らは、紫姫魅が『天王の玉座を手中に収める』という野心に基づき、此度の乱を起こしたものと考えていたのだ。
 ――が、しかし、凶事を示す黒点が《妖魔の森》に出た以上、経緯はそんな単純なものではなさそうだ。
「――《妖魔の森》に? そういえば、蘭麗も生前何か言っていたな。気になることがある、と。だが、彼女は私に『伝えたいことがあるので、逢いに行く』と使者を寄越した翌日――還らぬ人となってしまった……」
 天王は記憶を手繰るように遠くに視線を馳せ、痛ましげに言葉を紡いだ。
 昇華してしまった蘭麗のことを想うと、深い悔恨に胸が締めつけられる。
「《妖魔の森》と紫姫魅の傍に遣える、あの青年――悧魄が鍵か……。水鏡――彼については、何か?」
 天王が再び視線を水鏡へと戻す。
 蘭麗は、悧魄についても確認したいことがある、と洩らしていたのだ。
「それが……幾度《水鏡》を覗いても何も映し出さないのです。あの者は――あれは一体、何ものなのでしょうか?」
 水鏡が当惑した表情で応じる。
《水鏡》は、悧魄についてのみ何も映し出さないのだ。
 これは異例中の異例のことだった。
「やはりな……。蘭麗に悧魄のことを仄めかされたので、私も調べてはみたのだけれど――結果は同じだったよ。彼に関しては、素性も何もかもが謎に包まれている。おそらく、紫姫魅が意図的に隠しているのだと思う……。悧魄の正体を知っているのは、紫姫魅と――蘭麗だけだったのだろうね」
 天王の脳内には、既にある仮定が展開されていた。
 それは、紫姫魅に『殺してくれ』と吐露された日から、強く深く天王の裡に根づいている。
 忌まわしくも憐れな――現実。
 紫姫魅が巧妙に事実関係を隠蔽しているせいか、未だ裏付けは取れていないが、天王には己の推測が単なる妄想だとは到底思えなかった。
 己の見解を否定したい。
 だが、そうは出来ない。
 紫姫魅が天王の前から姿を消したあの日――あの時の彼の言動を反芻してみると、やはり導き出される答えは一つだけなのだ……。
 それに、過程がどんなものであれ、天界統治者として乱に終止符を打たねばならない。
 錯綜した想いの末に七天を殺めたのだとしても、それは赦されるべき行為ではない。
 紫姫魅の妄執や邪念を――これ以上、放っておくわけにはいかないのだ。
 天王は七天を見回すと、ゆっくりと己の所見を述べた。
「これは、私見なのだが――紫姫魅は妖魔に憑かれているのだと思う」



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