ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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プロローグ



 地に描いた不可思議な紋様が、黄金色の燐光を発していた。
 少年は目を見開き、光を発する地面――魔法陣を凝視した。
 自分で始めた儀式のはずなのに、驚愕の度合いは大きい。

 魔法陣が反応を示している――やはり悪魔は実在するのだ。

 少年は畏怖と驚喜に乱された心を落ち着かせようと、大きく息を呑み込んだ。
「……バアルよ。我は至高の権威をよろいて、汝に強く命ず……。我は神の姿に似せて創られ、神の御意に添いて神の力を授けられたる者なれば、神の御名によりて命ずる……」
 乾いた唇を懸命に動かし、呪文を唱える。
 転瞬、魔法陣の光が大きく渦巻いた。
 魔法円を中心に光が激しく渦を巻き、風を起こす。
 突風が少年を襲った。
 咄嗟に両手で顔を庇う。
 腕の隙間から眩い光の柱が垣間見えた。
 魔法陣から光の柱が立ち上り、天空目がけて迸ったのだ。
 一瞬後、光の柱は夜空に吸い込まれるようにしてスーッと消えた……。
『我が王を執拗に喚んだのは、そなたか?』
 不意に、高く澄んだ女性の声が少年の耳を掠めた。
 慌てて眼前から両手を払い、魔法陣に視点を定める。
 魔法陣の中心に、一人の女性が立っていた。
 深紅のドレスを纏った、美しい女性だ。
 一目見て、少年の心は彼女に強く惹き付けられた。
 超然とした眼差しで自分を見つめる女性。
 宝石のような青紫色の双眸が、少年を捕らえて離さない。
『我が王を喚んだは、そなたか?』
「俺が……喚んだ。貴女がバアルか?」
『我は地獄の東界王に遣える者。……我が王は来ぬ。そなたの未熟な《力》では、我が王を喚ぶことは到底不可能……。我がこうして喚び出されたのも何かの縁。我が王に代わり、そなたに遣えよう。我の名は――』
「ユーリ! ユーリだろ? 俺には解る」
 少年は得意満面に微笑んだ。
 女が虚を衝かれたように目を瞠る。
 だが、やがて彼女は眼差しを和らげ、静かに首肯した。
『我が主よ。我に何を望む?』
「ずっと……ずっと俺の傍に、ユーリ――」
『我が主の御心のままに』
 女は冷たい美貌に微かな笑みを刻んだ。

 出逢いは奇異な状況の中――それでも運命だと信じた。

 始まりは、単なる好奇心だった。




 そして終幕は、己れの無能ゆえに……。
 別れは呆気なく訪れ、少年と女を引き裂いた。
 幸せな日々は、脆く儚く崩れ去る。
「ユーリ……ユーリ……!」
 動かなくなった女の身体を抱き締め、少年は激しく嗚咽した。
 失ったものの大きさに胸が痛み発する。
 耐えきれない衝撃に心が哭く。
「殺してやる……。俺は赦さない。俺からユーリを奪った奴らを! 殺してやる……あいつらみんな、殺してやる――」
 少年は女を愛していた。
 女が何者であろうとも――たとえ人外の存在であろうとも、心から愛していた。

《真実の名》さえ知らぬ女を、少年は確かに愛していた……。


     *


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2009.06.26 / Top↑
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