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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
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Fri
2009.06.26[08:46]
 一刹那、空気が凍り付いた。 
 天王の放った意想外の一言が、皆に衝撃をもたらしたのだ。
「――どういうことです?」
 綺璃が驚愕を隠しもせずに、鋭く言葉を返す。
 水鏡と彩雅は言葉を失ったかのように、顔を見合わせている。
 年長者である瑠櫻だけは、他の者たちとは少々異なる反応を示した。彼は特別に驚いた様子もなく、「やはりね」と小さく呟き、痛ましげに瞼を伏せたのだ。予め天王の言葉を察していたかのように……。
「……解らない」
 天王は黄昏色の瞳を綺璃へ向け、静かにかぶりを振った。
「私が解っているのは、紫姫魅が私に背くような男ではない、ということだけだ。その彼が、今、私に敵対している――それには、何か深い理由があるはずなのだよ。心を狂わせられるような、ね……。《水鏡》が黒点を《妖魔の森》に置いた以上、妖魔に憑かれた、と考えるより他はない」
 天王はそこでフッと言葉を切り、考えに耽るように遠くに視線を馳せる。
 やがて、唇から重々しい溜息が零れ落ちた。
「彼は……私に『殺してくれ』と請うたことがあるのだよ。あの時には、彼は己の身体が妖魔に侵されていることを疾うに知っていたのだろうね……。妖魔との同化の進行状態にあって、心身共に自由が利かないのかもしれない。自害したくとも、共生している妖魔がそれを赦さない。だから、殺してほしい――というわけだ」
 天王の双眸が僅かに揺らぐ。
 殺してくれ。
 そう切に願った紫姫魅の顔を思い起こすと、辛いのだろう。
「けど、何故、紫姫魅ほどの者が? 紫毘の城主は、妖魔の扱いに最も慣れているはずなんですけどね」
 皆を代表するように、瑠櫻が素朴な疑問を繰り出す。
《妖魔の森》を監視するのが代々紫毘城主の使命なのだ。永年、対妖魔術を受け継いできた一族の長が、そう易々と妖魔に憑かれるなど到底考えられなかった。
「悧魄と何か関係があるのかもしれないけれど、真実のほどは定かではないよ。紫毘の城主である紫姫魅とて――隙はある。妖魔に憑かれたとしても不思議はないよ。それに彼は、そなたたちが思っているほど冷酷でも非情でもないよ。優しく、情に流されやすく――昔はよく私のことを甘やかしたものだ」
 天王が口許に微苦笑を閃かせる。
 明らかな感傷――紫姫魅に対する個人的な感情の片鱗だった。
 天王が個人として何らかの感情を露わにすることは、極めて稀なことだ。
 七天らは思わず天王を凝視していた。
 今の天王が玉座に就いてから、このような感情を発露させたことはただの一度もなかったはずだ。
「私はきっと――彼の愛情に甘えすぎたのだな……」
 今度ははっきりとした自嘲が天王の美顔を彩る。
 天王が紫姫魅をそう評するのならば、それは間違いではないのだろう。
 思い遣りに溢れ、情に篤く、友を大切にする男――それが、天王だけに見せる紫姫魅の姿なのかもしれない。
「さて、と――」
 天王は、七天たち視線を浴びながらゆるりと玉座から立ち上がった。
「天王様?」
 水鏡がハッと天王を見上げる。
 天王の黄昏色の双眸には、切迫したような決意が宿っていた。
 それが、七天たちに得体の知れぬ危惧を覚えさせたのだ。
 天王は、彼らの不安を拭い去るかのように限りなく優雅な微笑みを湛えた。
 そして、
「これから紫毘城へ行く。私一人で――」
 明瞭な声音で己の意志を伝えたのである。



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