ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 冬子の私室は、一階左翼部分に設けられていた。
 玄関前の廊下を左に進み、垂直に折れた部分の奥である。
 八畳ほどの洋間に、バスとトイレが別個についていた。
 与えられた部屋に荷物を置くと、冬子は廊下で待つ雅と木蓮の元へ急いだ。
 この短時間で一つ解ったことがある。
 それは、雅が『短気な性分』だということだ。
 他人がもたついてるのを見ると、苛立ちや鬱陶しさを感じる質らしい。
 冬子は彼の怒りを買わないように、何事も迅速に行わなければならなかった。
「遅い。一番奥が木蓮の部屋だ」
 部屋から出てきた冬子を軽く睨み、雅が隣室を指差す。
 ――そんなに怒らなくてもいいのに……。
 相変わらず不機嫌な面持ちの雅からツンと顔を逸らし、冬子は木蓮の傍へと歩み寄った。
 木蓮は、雅とは対照的に穏やかな表情を湛えていることが多い。
 同じ女性ということもあり、冬子は自然と好意を抱くようになっていた。
「気兼ねなく遊びにいらして下さいね、冬子」
 雅に感化されたのか、いつの間にか木蓮までもが『冬子』と呼ぶようになっていた。
「あとの二つは空き部屋で、今は物置として使っている」
 冬子のささやかな反抗を意に介さず、雅は颯爽と身を翻す。
「あっ、雅さん。あたし、パパから家事を手伝うように言われてるんだけど?」
 スタスタと歩く雅の隣に並び、冬子は思い出した父の言葉を繰り出した。
「必要ない。ウチの住人は、いつ起きるていつ寝るのか解らない連中ばかりだ。お互いプライベートにも干渉しない。だから、食事の用意も部屋の掃除も無用だ」
 雅から返ってくる答えはにべもない。
 矢継ぎ早に言われて、冬子は軽く眉根を寄せた。
 この屋敷の住人は、同じ家に住んでいるのに食事を共にすることもなければ、滅多に顔を合わせることもないらしい。
 それでは一緒に住んでいる意味がないようなものだ。
「寂しい暮らしね。せめて夕食くらい一緒に食卓を囲めばいいのに」
 思わず率直な見解が口をついて出てしまう。
 すかさず雅の鋭利な眼差しが冬子を射た。
「家主の方針にケチをつけるな」
「でも、冬子の言う通りかもしれませんわ、雅。冬子が滞在している間だけでも、夕食はご一緒しませんこと?」
「――木蓮」
「わたくしは冬子の意見に賛成ですわ」
 雅の目つきの悪さには慣れているのか、木蓮は臆した様子もなく柔和に微笑む。
 短い沈黙の後、雅の口から大きな溜息が落とされた。
「……夕食は午後七時。それから、住人の私室以外なら勝手に掃除してもいい」
 木蓮の笑顔に毒気を抜かれたのか、雅はアッサリと『家主の方針』を翻した。
 もっとも、その声には渋々といった響きが含まれていたが。
「じゃ、決まりね! あたし、これでも料理は得意なのよね。ところで、桔梗屋敷に住んでいるのは、全部で何人なの?」
 冬子は、雅が自分の意志を曲げたことに小気味よさを覚えながら明るく問いかけた。
「五人だ。今は三人だけどな」
 簡潔に応えながら、雅が身体の向きを転じる。
 話をしているうちにホールに辿り着いたのだ。
 雅が躊躇わずに階段に足をかけたので、冬子は小首を傾げた。
「雅さん、右翼棟は?」
 怪訝な面持ちで雅を見上げる。
 まだ一階右翼部分を案内してもらっていない。
「あっちは図書室と碧(みどり)とセイの部屋しかない」
 雅が足を止め、愛想のない声音で告げる。
「ミドリさんとセイさん?」
「ウチの住人だ」
「へえ。二人とも女性?」
「残念だが、どっちも男だ。ついでに二人ともしばらくは留守だ」
「碧は、連城(れんじょう)碧。セイは、篝(かがり)セイと言いますのよ。碧は今、ご自分の愛馬を探しに海外へ出かけていますわ」
 雅の説明を補うように、木蓮が言葉を紡ぐ。
「セイは私用がありまして、ご自分の住処に帰っていますのよ」
「住処? ああ……実家のことね」
 木蓮の言葉に、冬子は曖昧な微笑を浮かべた。
 留守だという二人がどんな人物だか知らないが、雅のように偏屈で無愛想な男性ではないことを願いたい。



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2009.06.28 / Top↑
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