ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「悪魔の起源は解ったわ。けど……ホントに《悪魔学》なんていう学問があるの?」
「ある。冬子が知らないだけだ。――《悪魔学》が出現した大きな理由は、三つある。一つは、キリスト教神学。『悪=悪魔』というのが、キリスト教神学の大きなテーマだ。《悪》という概念と存在を整理するために、神学者は必然的に《悪魔》を研究せざるを得なくなったのさ」
「うう……また難しい話ね」
「二つ目は、人間の《宇宙の秘密》に対する興味心の深まりだ。悪魔は元々が神であり天使だ。当然、《宇宙の秘密》を知っている」
「《宇宙の秘密》って、何よ?」
「超能力・奇蹟・未来予知・錬金術など、科学で解明不能な現象のこと全てだ。天使はヤハウェの命令により《宇宙の神秘》を人間に洩らすことを禁じられている。そこで人間は、多少の危険を犯してでも悪魔から聞き出す方を選んだ。こうして、悪魔にアプローチする方法として召喚法や魔術が発展した。三つ目は、悪魔の増加だ。《悪魔学》の基本的なテーマは《悪魔の分類》なんだよ」
「分類するためには、悪魔を識る必要があるものね――って、納得してどうするのよ、あたし! 思わず聴き入っちゃったけど、この世に悪魔なんているはずないじゃない!」
 雅の演説に真剣に耳を傾けていた自分に気づき、冬子は慌ててかぶりを振った。

 この世に悪魔など実在しているわけがない。

 天使も悪魔も架空の存在だ。

 それを研究している雅は、やはり奇特だ。
 奇異だ。
 常軌を逸した思考と思想の持ち主だ。

「悪魔は存在する。冬子が視ようとしていないだけだ」
 ブンブンと頭を振る冬子を見て、雅が可笑しそうにクックッと笑う。
 ――絶対、からかわれている!
 瞬時にそう判断を下し、冬子はわなわなと唇を震えさせた。
「じゃあ、何よ。《悪魔学》を研究する雅さんは、悪魔を召喚とかできちゃうわけ?」
 一向に忍び笑いを止めない雅に、仏頂面を向ける。
 同時に、揶揄を込めた言葉と猜疑の眼差しも投げつけてやった。
「できる。簡単だ」
 得意満面に雅が応じる。
 その余裕と自信が何処から湧いてくるのか、冬子には全く理解できなかった。
「あたしは悪魔なんて信じないわよ。――じゃ、あたし、友達と約束してるから、もう行くね」
 冬子は溜息を落とし、立ち上がった。
 延々と雅の戯言に付き合っている暇はない。
 今日は、これから早紀と逢う約束があるのだ。

「全て――真実だ」

 不意に雅が笑いを納めたので、冬子は怪訝に思い、彼に視線を戻した。
 瞬時、雅の真摯な眼差しと出会す。
「俺が悪魔を召喚できるのも事実だ。何なら披露してやろうか?」
 冬子の目を見つめたまま、雅は唇だけで笑った。
 形だけの冷たい笑みに、冬子は眉をひそめた。
 雅の眼差しは真剣そのものだ。
 冬子の目には、それが危うく、脆く、映っている。
 ――追い詰められている目だ。
 ふと、そう感じだ。
 真摯なのに、脆弱に見える。
 自信に満ちているはずなのに、一抹の翳りが見え隠れしている。
 ――狂気に侵される一歩手前だ。

「……それも嘘ね。もう騙されないわよ。雅さんにできるなら、あたしにもできるわ」
 冬子は雅に感じた危惧を念頭から追い払うように、努めて明るく微笑んだ。
「そうかもな」
 フッと雅の全身から緊張が抜ける。
 眼鏡の奥の双眸は最早何の感情も露呈してはいない。
「冗談はさておき、俺が《悪魔学》に心酔しているのは事実だ。ちなみに俺の研究では、この世の魔物を三つに分類している」
「ちょっと、まだ続けるの? あたし、ホントに約束あるんだけど」
 話を《悪魔学》に引き戻そうとする雅に、冬子はあからさまに不満顔を向けた。
 早紀とは午後四時に大学で待ち合わせている。
 タイムリミットが目前に迫っていた。
「これで最後だ。俺がこんなに語ることなんて二度とないだろうから、よく聞いておけ」
「ハイハイ……」
「三つの分類は――《人魔》《地魔》《天魔》だ。順に、人間の《人》、大地の《地》、天空の《天》に、魔物の《魔》を当てる。《人魔》は、人間が何らかの要因により魔物に変化したものだ。例えば――」
「狼男や吸血鬼とか?」
「そう。ゾンビなども含まれるな。《地魔》というのは、通常地上で目にすることのできる魔物だ。地上に生息している妖怪変化だと思えばいい」
「えーっと、ユニコーンとかドラゴンとか、ティンカー・ベルだと思えばいいの?」
「ティカー・ベル、ねぇ。……まあ、あながち外れじゃないからいいか。人間との遭遇・接触率が一番高いのが、この《地魔》だ」
「最後の《天魔》は?」
 早々に話を切り上げたくて、冬子は先を急かした。
「《創世記戦争》で敗れたルシファー軍は、星空の果てに逃げ延びるしか術がなかった。彼らは星界に仮寓を見つけ出す。以来、夜の空は堕天使たちの《天宮》となった」
「それが《天魔》と関係あるの?」
 冬子は責めるような視線で雅を見つめた。
 話が《創世記戦争》云々に戻ったことが気に入らなかったし、理解できなかったのだ。
「関係大ありだ」
 含みのある言い回しをし、雅は視線を真鍮の剣へと流す。
 そこに何を見出したのか、雅の顔には冷ややかな笑みが浮かび上がった。
 眼差しは、ここではない何処かへ遠く馳せられているようだ。
 やがて雅は、冷笑を顔に張り付かせたまま静かに言葉を紡いだ。
「《天魔》とは、即ち――ルシファーと六副官七十二将の総称だ」


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2009.06.29 / Top↑
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