ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 冬子は驚愕に目を丸め、悲鳴を喉の奥に張りつかせた。
 いつの間にか、地上に夥しい数の悪魔が出現していたのだ。
 悪魔たちの手には、ラッパ、太鼓、その他金管楽器が握られている。
 差詰め『悪魔の楽団』と言ったところだろうか。
 悪魔たちが一斉に音楽を奏で始める。
 そのけたたましい音に、冬子は両手で耳を塞いだ。
 驚嘆の眼差しで楽団を凝視する。
 程なくして、楽団の中央を何者かが悠然と歩いてくるのを発見した。
 いや、歩いてくる――というのは誤りなのかもしれない。何故なら、その人物はヒトコブラクダの背に乗って登場してきたのだ。
 頭上に輝く黄金の王冠がまず目を引く。
 その王冠を戴く長い髪も、聡明な輝きを宿す双眸も――全て黄金色だった。
 美しい顔立ちの青年は、雅の前でラクダの足を止め、彼を睥睨した。
 唇が何か言葉を発しているが、楽団の音楽に掻き消され、全く聞こえない。
 ただ、青年の厳しい表情から彼が怒っていることは察せられた。
「我の前で命令に従わぬ汝の失態を見よ。汝を我が前に引き出したるソロモンの五芒星の威力を見よ」
 怒れる青年に動じた様子もなく、雅が呪文を唱える。
 雅が剣を青年に突き付けると、一瞬にして楽団が消え去った。
 青年が騎乗するラクダも空気に溶けるようにして消散する。
 後に残されたのは、黄金色の青年だけだ。
「遅いぞ、セイ」
 雅がジロリと青年を睨めつける。
 ――セイ。
 冬子は慄然とした。
 桔梗屋敷の住人の中に『篝セイ』という人物がいたはずだ。
 冬子は素早く木蓮に視線を流した。
「わたくしたちの仲間――篝セイですわ。正しくは、火界王パイモンといいますけれど」
 木蓮がゆるりと頷く。
「やっぱり……悪魔なのね……」
 冬子は悄然と呟いた。
 大方予測はついていたが、いざ『それが事実だ』と突きつけられると、胸に違和感が生じる。
 これ以上一気に真相を明かされると、本当に気を失ってしまいそうだった。
 連続した怪異――相次ぐ悪魔の出現に、冬子の頭脳と理性は飽和状態に限りなく近くなっていた。
「星も出ていない悪天候に、私を喚び出す方が無茶だと思うが……。雅だと解ったから、わざわざ天宮から出向いてきたんだよ」
 黄金色の悪魔――セイが、不承不承といった口調で雅に言い返す。
「緊急事態だ。小言は後にして、あの鬱陶しい小悪魔ども追い払ってくれ」
 苦笑混じりに告げ、雅は剣で上空を指し示した。
「ベリアルの手のものか、それともバアルの手のものか……。いずれにせよ、私が直接手を下すまでもない」
 セイが冷淡な口調で告げ、彼は頭上の王冠を手に取る。
「火界王パイモンの名に於いて命ずる。出よ、我が誇り高き火蜥蜴(サラマンダー)族!」
 威厳溢れる声音で呪文を完成させ、セイは手にした王冠を無造作に天へと放った。
 高く宙に放り出された王冠が、眩い金色の光を発し、弾ける。
 途端、何もないはずの虚空に突如として炎の塊が出現したのだ。
 炎は凄まじい速度で分裂を繰り返し、悪魔が埋め尽くす上空へと昇っていく。
「な、何よ、アレッ!?」
 天空に散らばる炎の群れを見上げ、冬子は口許をわななかせた。
 それは、正確には炎ではない。
 炎を纏った巨大トカゲの大群なのだ。
 巨大なトカゲが口から紅蓮の炎を吐き出すのを見た瞬間、全身がゾクリと粟立った。
 ――ここは、異世界だ。
 セイだけではなく、残る一人の住人――碧も悪魔に違いない。
 ここは悪魔の巣窟。
 現実と常識を超越した空間だ。
 上空では、巨大トカゲが狂喜乱舞し、悪魔どもがこの世のものとは思えない断末魔の悲鳴を発している――阿鼻叫喚の恐ろしい光景だ。
 一方的な殺戮にしか見えない戦場から目を逸らした瞬間、冬子は眩暈を感じた。
 脳天を激痛が駆け抜ける。
 急速に視界がグルグルと回り始めた。
 もうこれ以上は耐えきれない。
 限界だ。
 現実を受け止める余裕がないことを認めた刹那、自己防衛のようにパンッと意識が弾けた――



     「Ⅴ.吹雪の痕」へ続く



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2009.07.01 / Top↑
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