ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 ――あたし、酷いことを言った……。
 自己嫌悪と後悔の念が胸の奥からせり上がってくる。
 言ってはならない言葉を、自分は吐露してしまったのだ。
 悪魔だからといって彼らが冬子に悪事を働いたり、不快感を与えたわけではない。
 むしろ彼らは冬子には優しかった。
 そして冬子も彼らを気味が悪いと感じたことはなかった……。
 なのに、得も知れぬ恐怖と焦燥に駆られ、禁句を告げてしまった。
『化け物』と罵ってしまったのだ。
 ――あたし、サイテーだ。
 だが、一度言葉に出してしまったものは、もう後には戻らない。
 冬子は己れの情けなさにきつく歯噛みした。
 それから静かに唇の戒めを解き、悄然と呟く。
「ごめんなさい……。あたし――帰るわ」
 簡素に告げて踵を返す。
 引き留める者は誰もいなかった。
 ただ、テレビから流れる雑音が耳障りなほど大きく聞こえてくるだけだ。

『――速報です。北海道・道央自動車道で起こった玉突き事故の続報が入ってきました』

 緊迫したアナウンサーの声が、部屋から出て行こうとする冬子の耳にうるさく響く。

『死傷者は七名。内、身元が判明している方は四名です。北海道旭川市、野田勝さん。札幌市、松川――』

 北海道――その地名に、冬子は我知らず歩調を緩めていた。
 養父母である砂波夫妻が旅行に赴いている土地だ。

『新たに身元が判明した方が二人。東京都杉並区、砂波雪子さん。同じく砂波隆一さん――』



「――えっ……?」
 今度こそ、冬子は完全に足を止めた。
 驚いて、バッと背後のテレビを振り返る。
 玉突き事故で死亡したとされる者のリストが、テレビ画面を埋め尽くしていた。
『砂波隆一さんは、運ばれた病院で、つい先ほど息を引き取られたとのことです――』
「う、そ……。嘘でしょ?」
 愕然と目を見開く。
 自分の耳も目も――全てが信じられなかった。
 信じたくなかった。
 そんなのは、全部嘘だ。
「パパとママが死ぬわけないじゃない」
 妙に乾いた声が咽喉の奥から洩れた。
 顔面には引きつった笑みが張りついている。
「冬子。落ち着け」
 事態を察した雅が素早く立ち上がり、歩み寄ってくる。
「テレビは嘘ばかり報道するのね。どうして……どうしてパパとママの名前があそこにあるのよ? ……嘘よ。全部、嘘だわっ!」
 錯乱しそうになる自分を抑え込むように、冬子は叫んだ。
 現実味が全く感じられない。
 俄には理解できない。
 喪失感もまだ芽生えない。
 ただ心が憤然としている。
 哀しみよりも先に、怒りが激しく渦巻いていた。
「しっかりしろ、冬子」
 雅が冬子の両肩を揺さぶるのと、大広間の電話がけたたましいベルを鳴らすのが同時だった。
 雅が電話に鋭い視線を突き刺し、険しい表情で身を翻す。
「いやっ……! 行かないでよ、雅さん! そんな電話になんか出ないでよっ!」
 それは、不吉な報せを運んでくる電話だ。
 本能がそう感じ取っていた。
 雅に向けて手を伸ばし、金切り声をあげる。
 だが、雅の手は既に受話器を取り上げていた。
 短い応答の後、全ての感情を押し殺したような表情で、雅が冬子を顧みる。
「冬子。砂波教授のお兄さんからだ――」
「いやっ! 嫌よっ。絶対に、いやっ! 何も聞きたくない! パパとママが死んだなんて、認めたくない! 絶対に認めないっっ!!」
 はげしくかぶりを振りながら絶叫し、目を閉じ、耳を両手で塞ぐ。
 愛する両親の訃報など聞かされたくはなかった……。
『突然の大雪のため、トレーラーはスリップしたと思われます。警察では、これから詳しい現場検証に入る――』
 塞いだはずなのに、耳にはアナウンサーの抑揚のない声が聞こえてくる。
 冬子は瞼を跳ね上げ、憎悪の眼差しでテレビ画面を凝視した。
 突然の大雪――あれは悪魔が運んできた魔の雪だ。
 星空に住まう悪魔たちが地上に降りて来る時にはしばしば異常気象になる、と操が言っていたではないか。
 真夏の雪を降らせたのは、あのおぞましい悪魔たち。
 両親を殺したのは、悪魔だ。
 その答えに行き着いた瞬間、冬子は強い眩暈を感じた。
 視界が奇妙に歪む。
 頭が痛みを発し始める。
 中で銅鑼でも打ち鳴らされているかのように、ガンガンと激しく病む。
 今まで自分を温かく包んでくれていた世界が崩壊する。
 急速に全ての体力と気力が身体から失われていく。
 感覚が全て遮断された。
 刹那、冬子は今日二度目の昏倒に見舞われた――


     *


 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.07.02 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。