ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 一面の銀世界が視界を埋め尽くしていた。
 何の穢れもないような純白の雪が、深々と降り続けている。
 小さな庭を持つ煉瓦造りの洋館にも雪は等しく降り注いでいた。
 半円に膨らんだ玄関ポーチに、幼い少女がコートも着ずに佇んでいる。

 ――あれは、あたし……。そして、これは夢だ。

 幼い少女を客観的に見つめながら、冬子は夢の中で呟いた。
 不思議と『夢を見ているのだ』という意識がちゃんとあった。
 幼い冬子は両手に何かを抱き締めている――赤い書物だ。
『まあ、どうしたの?』
 不意に、雪に閉ざされた寂寞を取り除くように、幼い冬子の目の前で玄関ドアが開く。
 優しげな面持ちの女性が、幼い冬子を見て驚いたように目を丸める――母・雪子だ。
『お嬢ちゃん、迷子になのったのかい?』
 雪子の背後から顔を覗かせたのは、父・砂波隆一だった。
 
 ――これは夢だ。
 冬子は泣きたい衝動に駆られた。
 これは夢以外の何ものでもない。
 養父母である砂波夫妻は、既にこの世を去っているのだから……。
 ――これは失われていた記憶の断片だ。
 桔梗屋敷を訪れてから、幾度か過去の映像がフラッシュバックしたことがあった。
 今度の夢も、それに相違ない。
『お父さんとお母さんは、どうしたのかな?』
 隆一が柔らかい眼差しで幼い冬子の顔を覗き込んでいる。
『いないの。父さまも母さまも……いないの』
 幼い冬子は、ふるふると首を横に振っている。
 そうしながら彼女は、両手に抱いた赤い書物を砂波夫妻の方へと押し出した。
『もう……これしか残ってないの。大切な本なの。とても大切な本なの』
 幼い冬子は辿々しい言葉遣いで、懸命に砂波夫妻に何かを訴えている。
 ――あたしは何も覚えてない……。
 幼い自分の姿を、冬子は不思議な気持ちで眺めていた。
 ――あたしは、どうしてあの赤い本が大切だったのだろう?
『父さまと母さまのために……まもらなきゃいけないの。これは母さまがくれた大切な本なの――』
 いつしか幼い冬子の双眸からは涙が溢れていた。
 何かに耐えるように小さな唇を噛み締め、強い光を湛えた眼差しで砂波夫妻を見つめている。
 声もあげずに泣き出した幼い冬子を、砂波夫妻がそっと抱き締めた。
 
 直後、夢は予告もなしに唐突に終わりを告げた……。

    
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2009.07.02 / Top↑
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