ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「――冬子ちゃん、まるで外国人みたいね。髪は金色だし、目は青よ。年々、日本人じゃなくなってくるわ」
 階下から女性の言葉が聞こえてきたのは、冬子たちが部屋を後にし、二階廊下へと身を移した時だった。
 その声に、冬子は怯えるように身を震わせ、足を止めた。
 自然と雅と木蓮の足も止まる。
「そうねぇ……。隆一さんも雪子さんも、どうして、あんな何処の馬の骨とも解らない子供を引き取ったりしたのかしら?」
 ヒソヒソと会話を営む女性二人の声。
 階段を昇っている最中なのか、それは徐々に近づきつつあった。
 聞き覚えのある声に、冬子は強く唇を噛み締めた。
 雪子の姉・鞠子と、隆一の兄嫁・美樹だ。
「フンッ……低俗な奴らめ」
「冬子、気にすることありませんわよ」
「あたし、慣れてるから――大丈夫」
 雅と木蓮に心配はかけられない。
 冬子は無理に微笑んで見せた。
 ――そう。こんなのは昔からよくあること。よく聞かされた言葉よ……。
 大きく息を吸い込み、心を落ち着かせようと試みる。
 子供の頃から、親戚、近所の人々、級友などに散々言われ続けてきたことだ。
 今更、気に病むことはない。
 ――気にするな。気にするな。
 呪文のように胸中で繰り返す。
「誰が引き取ることになるのかしらね? わたしはイヤよ。雪子の実の娘なら可愛がれるかもしれないけれど、冬子ちゃんはちょっとね」
「うちだって困るわ。三人も子供がいるのよ。これ以上増えたら大変だわ。でも、この家や遺産が相続されるのなら考えてもいいわね」
「やっぱり、遺産は全部冬子ちゃん行きよね。隆一さんとも雪子とも血の繋がらないあの子が遺産相続人だなんて、なんだかしっくりしないわね」
 冬子に対する伯母たちの誹謗中傷は留まることを知らない。
「パパとママが死んだばかりなのに……遺産の話なんて酷い」
 憤然と呟き、冬子は手が真っ白になるほどきつく書物を握り締めた。
 怒りと羞恥と情けなさで、全身がわなわなと震える。
「隆一さん、遺言状残して――あっ、あら、冬子ちゃん! こんな所にいたの?」
「ずっと姿が見えないから心配してたのよ」
 鞠子と美樹が二階へ姿を現す。
 冬子の姿を発見した途端、二人は取り繕うように笑顔を浮かべた。
「あの、あたし……取りに行きたいものがあるので、一度椎名さんのお宅に戻ります」
 憤怒を必死に抑え、冬子はぶっきらぼうに告げた。
 怒鳴り散らしたいのを我慢して、一歩足を踏み出す。
 ――と、その肩を急に後ろから強く掴まれた。
 驚く間もなく、冬子の脇を擦り抜けて雅が前に進み出る。
「冬子さんのことは心配ご無用ですよ。私が砂波教授から頼まれていますので」
 雅の口から丁寧な言葉が飛び出す。
 冬子は驚愕に目を見開き、雅を見遣った。
 雅の顔には日頃想像もつかないような満面の笑みが広がっている。
 元来、端正な顔立ちなだけに笑顔はひどく華やかだ。
「まあ、貴方は確か椎名教授の――」
 雅の笑顔に、鞠子と美樹は惚けたようにポカンと口を開けている。
「それから、貴女方が遺産の行方を心配する必要は全くないと思いますよ。きっと、遺産は全て冬子さんのものでしょうから」
 笑顔のまま、雅は流暢に言葉を唇に乗せる。
 だが、声音は硬質的で、内容は辛辣なものだ。
 言われた内容をすぐには把握できないのか、伯母たちは茫然とその場に立ち尽くしているだけだ。
 そんな伯母たちを尻目に雅は冬子の腕を引き、階段へと向かい始める。
「ああ、そうだ――」
 階段を一段降りたところで、雅は再び伯母たちを振り返った。
「冬子さんが大学を卒業するまで、彼女はうちで鄭重に預からせていただきます。おそらく、砂波教授の遺言状にも、その旨が明記されていると思いますので――」
 綺麗な笑みと穏和な声音で、雅が更なる毒舌を放つ。
 その眼差しだけは、いつもの彼らしく怜悧かつ冷然と輝いていた。


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2009.07.04 / Top↑
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