ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 砂波家の玄関を出た途端、雅が掴んでいた冬子の腕をパッと離した。
「久々につまらないことをしたな」
 小さく舌打ちを鳴らす雅の横顔は、いつもの無愛想なものに戻っていた。
 微笑みの欠片も見当たらない。
 眼鏡の奥の双眸は、まだ冷ややかな怒りを孕んでいた。
「雅さん。パパの遺言状のこと、ホント?」
 唖然としながら雅を見上げる。
「知らん。ハッタリに決まってるだろ」
 簡潔に告げ、雅は喪服のポケットから煙草を取り出し、口にくわえた。
「まあ、嘘をお吐きになりましたの? でも、わたくし、雅がああ言って下さって気分が清々しましたわ」
 驚いたように目を丸めた直後、木蓮は自分のことのように嬉しそうに微笑んだ。
「雅さん。あの……その――ありがとう。あたし、嘘でも嬉しかったよ!」
 冬子は《アッピンの赤い書》を抱き締めたまま心からの笑顔を浮かべた。
 雅が個人的に伯母たちの態度に怒りを感じ、反撃に出たのだとしても――嬉しかった。
 結果的に、雅は自分を助けてくれたのだ。
 その事実が純粋に嬉しかった。
 胸に温かく響いた。
「別に全く嘘って訳でもない。冬子がここに居づらいのなら、好きなだけ屋敷に住めばいい」
 憮然とした口調で雅が応じる。
 それから彼は、照れ隠しのように煙草に火を点けた。
「雅さんって、実はいい人なのね!」
 冬子は自然と頬が緩むのを感じた。
 雅は冬子の言葉など聞こえなかった様子で、悠然と紫煙を燻らせている。
 照れているのだろう。
「雅さんて――可愛い」
 雅の新しい面を発見して、冬子はつい吹き出してしまった。
 雅は他人より少しだけ感情表現が下手なだけなのだ。
 いつも無愛想で尊大なのは、それを隠すためなのかもしれない。
「帰るぞ」
 笑い続ける冬子に雅がジロリと鋭い視線を投げ、歩き始める。
「冬子!」
 聞き慣れた声が門の方から聞こえたのは、その時だった。



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2009.07.04 / Top↑
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