ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 黒い喪服に身を包んだ少女が、門から庭へと駆け込んでくる。
「早紀!」
 その姿を発見して、冬子は驚きと嬉しさに目を瞠った。
 親友の宮森早紀だ。
 両親の訃報を聞き、駆けつけてくれたのだろう。
「お葬式、出られなくてごめんね。……一人で大丈夫だった、冬子?」
 冬子の前で足を止めるなり、早紀は非常に申し訳なさそうに謝罪した。
「うん。あたしは元気よ。来てくれて、ありがとう。パパとママも喜ぶわ」
 久々に逢う親友の顔を見て、冬子は柔らかく微笑んだ。
 早紀の顔を見た途端、胸に安堵が芽生えた。
 心身共に疲弊しきっている時に馴染みのある顔を見ると、ホッとする。
「式に出られなかったから、お焼香だけでもあげさせてもらおうと思って――っと、もしかして、これから出かけるところだった?」
 早紀が途中で言葉を途切らせ、不思議そうに冬子の左右に視線を走らせる。
 雅と木蓮の存在を怪訝に思ったのだろう。
「うん。ちょっと桔梗屋敷に……。あっ、彼が屋敷の主、椎名雅さん。こっちは、同じ屋敷に住む美月木蓮さんよ」
 二人と早紀が初対面だということに気づき、冬子は慌てて二人を紹介する。
 転瞬、早紀が驚いたように、ハッと雅を凝視した。
「へえ……。彼が噂の椎名雅さん、ね」
 早紀は、木蓮には目もくれず一心に雅を見据えていた。
 その眼差しには奇妙な険があった。畏怖するような、挑むような、不思議な瞳の輝きだ……。
 睨むような早紀の眼差しに、雅は顔色一つ変えない。無感情に早紀を睥睨していた。
 そんな雅にムッとしたのか、早紀は急に顔を強張らせた。
「冬子の友人の宮森早紀よ。よろしくね、椎名雅さん」
 怒ったような口調で告げ、早紀は唇だけで笑みを造る。
 冬子は小首を傾げ、早紀を見つめた。早紀の言動を訝しく思ったのだ。
 元来、早紀は人当たりの良い方だ。
 なのに、雅に対する言葉は何故か棘がある。
 以前、見たという桔梗屋敷の住人は、やはり雅のことなのだろうか?
「じゃ、わたし、お焼香させてもらうわね」
 早紀が雅から視線を外し、冬子を振り返る。
 その綺麗な顔には、常と変わらぬ優しい笑みが浮かんでいた。
「あたしも一緒に行くわよ」
「いいわよ。疲れてるんだから、ゆっくり休みなさいよ。あっ、冬子の素敵な伯母様たちに何か言われたら、嫌味の一つや二つはちゃんと返しておくからね」
 家に引き返そうとした冬子を、早紀が素早く制する。
 彼女は明るくサバサバとした口調で告げると、軽やかに身を翻してしまった。
「ありがとう、早紀。後で電話するね!」
 冬子の言葉に早紀は首だけで冬子を顧み、片手をヒラヒラと振る。
 そして、そのまま砂波家の玄関へと吸い込まれて行った。
「――オイ、あれは本当に冬子の友達か?」
 早紀の姿が完全に消えると、雅が不愉快そうな声でポツリと呟いた。
「そうよ。親友よ。だから、早紀のこと悪く言わないでね」
 口振りからして、雅は早紀のことがお気に召さなかったようだ。
 冬子は早紀に対する不満を聞きたくなくて、先に釘を刺した。
「いや、悪く言うつもりは毛頭ないが――」
 雅は何かを思案するようにスッと両眼を細め、冬子の顔をマジマジと見つめた。
「あれは、心が負の方向に偏ってる。あまり喜ばしくない傾向だ」
 低く囁き、雅は煙草を地面に投げ捨てて靴底で揉み消した。
 冬子は大仰に肩を竦めた。
 相変わらず、雅の言っていることはよく解らない。
 魔術師の超感覚というものが何かを掴み取ったのかもしれないが、冬子には到底理解不能だ。
「どうでもいいけど――ポイ捨て禁止よ!」
 わざとらしい溜息を洩らした後、冬子はキッと雅を睨めつけた。


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2009.07.04 / Top↑
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