ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 真っ先に視界に飛び込んできたのは、対峙する雅とマカバルの姿だった。
 冬子は一瞬、足を止めた。
 中空に浮かぶマカバルに、憎悪に満ちた眼差しを突き刺す。 
 まだ明るい空には、ここが木蓮の《結界》内であることを示すように白い二つの月が浮かんでいた。
 異空間の中では、既に戦闘が繰り広げられている。
 マカバルが喚び寄せた下級魔たちが奇声を発し、縦横無尽に空を駆け巡っている。それを、操とベイヤールに騎乗した碧が鬱陶しげに薙ぎ倒していた。
「それは俺の剣だ。返してもらおう」
「ほう。《ソロモンの剣》を持たない貴方が、わたくしに勝てるとでも?」
 耳に聞こえてきた雅とマカバルのやり取りに、冬子は視線を地上へと引き戻した。
 雅は不機嫌の申し子そのものの最高の仏頂面で、マカバルを睨めつけている。片手には《アッピンの赤い書》が携えられていた。
「この剣がなければ、魔法陣を出現させることもできないでしょうに。剣を持たぬ貴方など、わたくしの敵ではありませんね」
 余裕綽々のマカバルの言葉に、冬子は小さく息を呑んだ。
 雅が巨大魔法陣を地表に出現させていないことに、たった今気づいたのだ。
 ルシファー象の飾られた噴水は、常を保っている。
 おそらく《ソロモンの剣》がなければ、あの魔法陣は発動しないのだろう。
 雅は、自由自在に魔術を駆使できない状況に置かれているのだ。
「《アッピンの赤い書》も我が物にするためにも、貴方には早々に消えてもらいましょう!」
 愉悦の響きを孕ませ、マカバルが地上の雅を目指して急降下を始める。
「雅さん……! ダメ……ダメよ……。それだけは、絶対にダメ!」
《ソロモンの剣》を振り翳すマカバルを見て、冬子は顔を蒼白にさせた。
 雅が何か呪文を唱え始めたが、どう考えても呪の完成よりマカバルの攻撃の方が速い。
「逃げて、雅さん!」
 衝動的に冬子は駆け出していた。
 ――雅さんが殺されてしまう!
 直面した危機に、本能が『雅を護れ!』と決断を下した。
《アッピンの赤い書》も《ソロモンの剣》も、マカバルに奪わせてはいけない。
 雅を――殺させもしない! 
 自分の過失のせいで招き入れてしまった悪魔が、雅を死に至らしめるようなことがあれば、早紀は哀しむだろう。嘆くだろう。己れを激しく憎悪するだろう。
 自分とて同罪だ。
 早紀が悪魔に憑かれているのも知らずに、雅の聖域――桔梗屋敷にマカバルを引き入れたのは、他ならぬ冬子なのだ。
 早紀のためにも、自分のためにも――絶対に雅を死なせるわけにはいかなかった。
「あんたの思い通りになんかさせないわ!」
 必死の形相で冬子は疾駆した。
 力の限り足で地を蹴り、雅を目指す。
 呪文を唱えることに集中する雅を、冬子は両の手で思い切り突き飛ばしていた。
「冬子!?」
 唐突に突き飛ばされ、雅が驚愕の眼差しで冬子を凝視する。
「雅さんは死んじゃダメなのよ――」
 雅に微笑みを送った刹那、
 ドスッッ!
 重い衝撃が背中から胸へと一気に駆け抜けた。
「冬子! ――冬子っ!!」
 雅が血の気を失った顔で駆け寄ってくる。
 冬子は微笑みを浮かべたまま、ひどくゆっくりと己れの胸部を見下ろした。
 金色に輝く真鍮の剣――その切っ先が胸から飛び出していた。
 剣を中心に、パッと血の華が咲く。
 ――ああ、あたし……死ぬのね……。
 認識した瞬間、貫かれた背中と胸に強烈な痛みが発生した。
 マカバルによって繰り出された《ソロモンの剣》が、背から胸へと貫通していることは間違いなさそうだった。
 身を焦がすほどの痛みと熱が、全身を襲う。
 全身が灼けるように熱い。
 ――あたし……死ぬんだわ……。
 茫然と胸中で呟き、冬子は脱力する身体に任せてガックリと地面に膝を着いた……。



     「Ⅸ.失われた魔道書」へ続く



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2009.07.05 / Top↑
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