ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「――痛っ……!」
 小さな悲鳴をあげ、ベリアルは指を浸していた水盤から慌てて手を引き抜いた。
 少ない明かりに照らされた、仄暗い天宮の一室――
 ベリアルは、ここから遙かなる地上へと水鏡を通して己れの幻影を飛ばしていたのだ。
「まったく……小うるさいね、あの魔術師は」
 水から引き上げた手に視線を馳せて、ベリアルは溜息を落とした。
 人差し指と中指の尖端から、真紅の液体が迸っている。
《ソロモンの剣》は、地上の幻体を通じて本体にまで襲い掛かってきたのだ。
「でも、ルシファー様が目醒めるまでの遊戯にはなるね」
 自分の発想に愉悦を感じたのか、ベリアルの唇からクスクスという笑みが洩れた。
「《ソロモンの剣》も《アッピンの赤い書》もセーレも――いずれ、全て私の物になるのにね。……君の大切なものを一つ一つ奪ってあげるよ、偉大なる魔術師さん」
 指先から流れ落ちる血を見つめながら、酷薄に囁く。
「君は私の身体に傷をつけたんだから、当然の報いだよ」
 楽しげに告げ、ベリアルは再び水鏡に視線を戻した。
 そこには、遙か遠く――地上の桔梗屋敷の光景が映し出されている。
 住人一人一人を検分するように見回してから、血の溢れる指先をそっと口に含んだ。
「これから、楽しくなりそうだね」
 血を舐めとった指先から唇を離し、ベリアルは恍惚に満ちた声音で告げた。
 自身の血で染められた唇が、ゆっくりと弧を描く。
 美しいが、恐ろしい。
 優麗だが、残酷。
 それは、鮮烈な魔性の微笑みだった――



     「Ⅹ.真実の名」へ続く



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2009.07.05 / Top↑
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