ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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Ⅹ.真実の名



 真夜中の屋敷を、冬子は雅と連れ立って歩いていた。
 行き先は、《開かずの間》――ユーリの眠る厳粛な聖櫃だ。
 ベリアルの幻が霧散した後、冬子は急いで早紀の元へと戻った。
 意識を失った早紀に、木蓮が簡単な暗示――記憶操作の魔術を施した。
 他人の記憶を勝手に操るのはいけないことだと解っている。だが、皆の話し合いの結果、やはりそうするべきだという結論に達したのだ。
 無闇に桔梗屋敷の秘密を明かしてはならない、というのが一番の決定打だった。
 最初は反対した冬子だが、最終的には皆の意見に賛同した。
 その方が、早紀のためになるかもしれないと思い直したのだ。
 悪魔に取り憑かれていた忌まわしい記憶などない方が、早紀も救われるのかもしれない……。
 木蓮は、早紀の記憶からマカバルに関するものだけを器用に選び、消滅させたようだった。
 目覚めた早紀は、自分が倒れた理由を覚えていなかった。『貧血で倒れたのだ』と告げると、彼女は疑うことなく素直にそれを信じた。
 冬子は、体調を案じて早紀に一泊することを勧めた。
 冬子の部屋で早紀といつものように喋りっているうちに時刻は刻々と更け、今に至る。
 彼女が眠ったのを見計らって、冬子は部屋を抜け出してきたのだ。

「悪いな。疲れてるのに付き合わせて」
 普段から夜型人間の雅は、疲労の影すら見せずに軽く微笑んだ。その微笑みはぎこちない。
《開かずの間》の鍵を外し、扉を開ける手付きも、危うく感じられる。
 ――無理もないわね。八年間、待ち望んでいた日が、ようやく訪れたんだもん。
「あたしは平気よ」
 冬子は雅の後について室内に歩を進めた。
 雅の指の一鳴りで、室内の蝋燭に炎が灯る。
 冬子は明るくなった室内を見回してから、ユーリの眠るベッドへと足を運んだ。
 雅の気持ちは、痛いほどよく解る。
 彼は、この八年間を愛する女性の再生のためだけに費やしてきたのだ。
 心が急き立てられないはずがない。
 バアル配下であるユーリの《真実の名》を知る唯一の術――《アッピンの赤い書》は、冬子自身だったのだ。
 しかも、冬子は視た者の《真実の名》を瞬時に検索することができる。
 甦ったリリムの記憶のおかげで、書に綴られた得体の知れぬ象形文字を解読することも可能なのだ。
 雅にとって、これほど都合のいいことはないだろう。
 一刻でも早く、ユーリの魂を召喚したいと願うのは、当然のことだ。



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2009.07.05 / Top↑
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