ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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エピローグ



 晴れた青空が広がっている。
 広大な前庭に立ち、砂波冬子は頭上を振り仰いだ。
「今日も快晴! う~ん、いい天気だわ!」
 雲一つない爽快な空を見つめ、両手を高く突き上げる。
 伸ばした全身に心地よさを感じながら、冬子は思い出したように背後を振り返った。
 すぐ傍では、椎名雅を除く桔梗屋敷の住人たちが、忙しなくお茶の準備をしている。
 惚れ惚れするほどの快晴なので、外でお茶を楽しもうという段取りになったのだ。
「あたし、雅さんを呼んでくるね!」
 皆に一言声をかけ、冬子は元気良く駆け出した。
 屋敷に飛び込み、雅の姿を捜す。
 雅はすぐに発見できた。
 前庭に面したガラス張りの廊下に、ボンヤリと佇んでいたのだ。その視線の先に、噴水に飾られたユーリの像があることは間違いない。
 ユーリの魂が消滅したのを悟った夜から、一週間が過ぎ去っている。
 あれ以来、雅は何故か眼鏡を使用しなくなった。
 彼なりの一つのけじめなのかもしれない。
 雅の中では、あの夜、確かに『何か』が終焉を迎えたのだ。
 だが、『何か』が終わりを告げたのなら、また新しい『何か』を始めるべきだと、冬子は思う。
 そう簡単には始められないだろうが、それでもやるべきだとも思う。
 前に進むために――生きてゆくために。
 冬子は溜息を吐いてから、大きく息を吸い込んだ。
「雅さーん、お茶の時間よ!」
 弾んだ声で告げ、パタパタと雅に駆け寄る。
 今日のお茶会は、すっかり塞ぎ込んでしまった雅を励ますために、満場一致で開催が決定されたものだ。
 皆、各々に雅のことを心から案じているのだ。
 しかし、雅にはそれが巧く伝わっていないようだった。
「遠慮する……」
 ひどく面倒臭そうに雅が言葉を発する。
 構わずに、冬子は雅の腕を掴んだ。
「何言ってるのよ。こんないい天気なのに外に出ないなんて、絶対おかしいわ。吸血鬼じゃあるまいし……! 家に籠もってばかりだと腐っちゃうわよ! たまには陽に当たるべきだわ。それに、今日は雅さんの好きなイチゴタルトを作ったのよ」
 冬子は有無を問わさず雅の腕を引っ張り、廊下を引き返し始めた。
 無気力と億劫に慣れてしまった雅は、抵抗するのも煩わしいのか、しかめっ面でついてくる。
「ウヴァル、マルコシアス!」
 玄関に行きがけに、大広間に向かって大声を放つ。
 間髪入れずに、暗色の影が二つ、大広間から飛び出してきた。
 銅像姿のまま二頭の獣が躍り出てきたのだ。
 彼らは、我先に主人である木蓮の傍に行こうというのか、競い合うようにして玄関を走り抜けていく。
「ちょっと、あんたたち! 外に出る時くらい人型になりなさいよっ!」
 冬子が怒鳴ると、前を行く獣たちは瞬時に人間の姿へと転身した。
「ったく、楽だからってすっかり怠けちゃって! 誰かに見られたら、どうするのよ」
 靴を履きながら、ブツブツと不平を洩らす。
 不意に、雅の顔が上がった。
 僅かだが驚いたように目を瞠っている。
 久々に雅の感情のある顔を見たような気がして、冬子の方が逆に驚いてしまった。
「な、何よ、雅さん?」
「――逞しくなったな」
 無愛想に告げ、雅は緩慢な動作で靴を履き始める。
 唐突に嬉しさが込み上げてきて、冬子は頬を弛緩させた。
 微かだが雅の反応が得られたことに感動したのだ。
 雅の心は完全に閉ざされたわけでも、死んだわけでもなかったのだ。
「雅さん。あたし――強くなったわよ」
 冬子は、きっぱりとした語調で断言した。
 雅が不思議そうに冬子を見返しくる。
「あたし、まだ全部を認めたわけじゃないわ。パパとママの死や悪魔のこと。《アッピンの赤い書》や、あたしがリリムだってこと――全てを完全には呑み込めてないわ。今でも、夢じゃないかって思うことがあるの」
 苦笑混じりに冬子は言葉を連ねる。
「でもね、あたし、少しずつなら――乗り越えて行く自信があるの。ちなみに、この桔梗屋敷のことは、かなり好きになったわよ!」
 相変わらずの仏頂面で語りを傾聴してる雅の背を、冬子は軽く押し出した。
「あたし、前にみんなのことを『化け物』だって罵ったけど、あたしもリリムらしいし……。結局、この屋敷には普通の人間は誰一人としていないのよね」
 ドアを開け、雅を先に外に出す。
 燦々と降り注ぐ、夏の陽射しが目に鮮やかだった。
「最近、思うの。これが、あたしの新しい《家族》なんだって!」
 雅の隣に立ち、眩い陽光を目を細めて見つめながら明るく笑う。
「家族……?」
「そっ、家族よ」
 冬子は、雅を促すように視線を前方へと流した。
「遅いですわよ、雅」
 茶会が催される白いテーブルの傍で、木蓮が柔らかい口調で雅を咎める。
「雅が遅いから一個喰っちまったぜ、オレ!」
「甘いものは苦手じゃなかったんですか? 結局、操は胃に入れば何でもいいんですね」
「碧、余計なこと言うなよっ!」
 イチゴタルトを頬張っているらしい操に、碧が冷たい言葉を浴びせる。
 それを見て、セイが大仰に溜息を吐いた。その眼差しには、呆れの他に弟を見守る兄のような優しさが宿っていた。
「さあ、お茶にしますわよ」
 近くの喧噪をものともせずに、木蓮が穏やかに微笑む。
 その両脇には彼女の騎士であるウヴァルとマルコシアスが、しっかりと陣取っていた。
「ねえ、雅さん。操くんと碧くんが喧嘩して、セイさんは我関せず。木蓮さんが優しく微笑む傍には、いつもウヴァルとマルコシアスがいる――」
 冬子はゆっくりと視線を雅に戻した。
「これって、とてつもなく見慣れた光景で、とてつもなく安心できる光景じゃない? あたしは大好きよ、この光景。みんな、素敵な《家族》だわ! ねっ、そう思わない?」
 声を弾ませ、同意を求めるように雅に向かって小首を傾げてみせる。
「家族か……」
 短く呟く雅の双眸は、目前の光景をじっと見つめている。
 沈黙が、しばし二人の間を浮遊する。
 気まずくなるのを懸念し、冬子が上目遣いに雅を見上げた、その時――
「……それも悪くないかもしれないな」
 雅の唇が淡々と言葉を紡いだ。
 冬子は驚きと嬉しさに大きく目を丸めた。
 ――今、笑った!
 雅の表情は、逆光ではっきりと見て取ることはできない。
 それでも、冬子には光を透かして見えた。
 眩い陽射しの向こう側に、雅の微笑を。
 嬉しさに、思わず笑みが零れる。
 温かいものが胸に広がっていくのを感じた。
 ――生きていこう。大切な人たちと共に!
 改めて、心に強く誓う。
「行こう、雅さん!」
 冬子は満面の笑みを雅に贈り、その手を取って軽快に駆け出した。
 大切な者たちが待つ、光溢れる場所へと向かって――



                 《了》



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2009.07.05 / Top↑
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