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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.07[22:21]

「……嵐のように去って行ったな」
 閉ざされた扉を見つめながら、アイラは独白のように呟いた。
「申し訳ありません」
 ルシティナが軽く頭を下げる。
「いや、快活で羨ましいくらいだ」
「姫の勢いには、陛下も時折、根負けしますからね……」
 苦々しくルシティナは言う。だが、言葉とは裏腹に表情は穏やかだった。ファリファナに対して、好感を抱いているのだろう。
「へえ……ラパスがね」
 アイラは皮肉げに唇を歪めた。
 あの冷酷無比なラパスがファリファナに言い含められている姿など、微塵も想像できない。
『魔王』と呼ばれるラパスに人間らしい部分が存在していることが、不思議でならなかった。
 キールやイタールにとっては悪魔の化身のような男でも、自国では愛し敬われる覇王なのだ。
「ところで、『姫』と呼ぶからには、ファリファナはただの侍女ではないのだろう?」
 ふと、ルシティナがファリファナのことを『姫』と呼んでいることに疑問を抱き、アイラは素直にそれを口に出した。
「姫は、ルフィカスタ伯爵家の令嬢なのですよ。あっ、姫というのも本当なら適切ではないのですが……」
 ルシティナが己れの言葉に小首を傾げる。
「何故?」
「先代の伯爵は既に亡くなっていまして、本来なら姫が爵位を継ぐはずだったのです。ですが、姫は相続を放棄し、王宮に上がることを望まれました」
「変わった女性だな」
 爵位を継げば、女伯爵として何不自由のない生活を望めたはずだ。それを捨てて王宮で侍女暮らしとは、酔狂としか言い様がない。
「ええ。陛下はルフィカスタの爵位を姫以外には与えようとはなさらないので、いずれ姫は女伯爵として自家へ戻ることになるとなるでしょう。姫は、既に伯爵位を得ているも同然なのです。本来なら『伯爵』とお呼びしてもおかしくないのですが、本人が『姫』と呼ばれることさえ毛嫌いしているんです……」
 ルシティナが苦笑交じりに告げる。
「なるほどな……。それで納得した」
「何がですか?」
「私が『殿下は不要だ』と言った時、彼女は即座に私のことを『様』付けで呼んだ。彼女も、おまえに『姫は不要だ』と言ってるのだろう、ルシティナ?」
「その通りです」
 ルシティナが憮然と頷く。
「変わった――というか、面白い姫だな」
 アイラは、胸の奥から笑いが込み上げてくるのを感じた。
 風変わりなファリファナに、自分と似た意固地な共通点を発見したことが妙に嬉しく、楽しかったのだ。
「おかしな女性だ」
 アイラは自然と微笑んでいた。
 それを見たルシティナが、驚愕したように目を丸める。
「初めて笑いましたね、殿下」
「……そうだったかな?」
 ルシティナを見返すアイラの顔には、まだ微笑が刻まれている。
 確かに、あの地下牢に入れられてから、心から笑ったことがなかったように思える。
 それを引き出したのは、紛れもなくファリファナだ。
 強い意志を秘めた紅い眼差し。
 気丈な面持ち。
 そのどれもが、アイラには好ましく感じられた。
 ファリファナは敵国であるカシミア側の人間なのに、不思議な気持ちだった。


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Category * 紅蓮の大地
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