ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 真昼の光が、世界を覆い尽くしていた。
 叛乱の神の城――紫毘城にも例外なく眩い陽の光が射している。
 正門前の広大な庭園には、人影が二つ――
 燦々と降り注ぐ光の下、二人の神が対峙していた。
 天王と紫姫魅天である。
 二者の間には静寂が漂っている。
 どちらも見つめ合ったまま、言葉を発しようとはしない。
 永遠に続くかと思われるような静謐な時が流れる。


「……殺してくれ」
 無言の時に終わりを告げたのは、紫姫魅の苦々しい声だった。
「殺してくれ、天王――」
 紫姫魅の唇から押し殺したような声音が零れ落ちる。
 天王の視界の中で、紫姫魅の肩が激しく上下し始めた。
「私を……今でも――友と認めてくれているのなら……どうか――」
 紫姫魅の口から荒々しい息が洩れる。
 見る間に美麗な顔が青ざめ、眦がキッとつり上がった。
 紅を塗ったように紅く鮮やかな唇が、裂けんばかりに大きく弧を描く。
 端整な容貌に、凄絶な毒々しさが加わった。
 傍目にも、妖魔が紫姫魅の表層に出現しようとしているのが解る変化だった。
「殺してくれ、久那沙」
 戦慄く唇が天王の真名を呼ぶ。
 辛うじて己の意識を留めているような紫姫魅の痛切な声に、天王は双眸を僅かに細めた。
 永年肩を並べて生きてきた友が、妖魔に冒されている事実を認めなければならない瞬間だった……。
「紫姫魅、おまえを魅入った妖魔は何処にいる? 私は――おまえを殺めたくはない」
 それでも天王は、一縷の希望に縋る思いでそう問いかけた。
「……もう……遅い――」
 紫姫魅が弱々しくかぶりを振る。
「既に……同化は完了しつつある……もう、私にも……どうすることも出来ない……」
「では――最早、おまえをごと殺すしか術はないのだな?」
「そのようだな。私は……自害したかったのだけれど……妖魔が赦してくれなくてね……」
 紫姫魅は自嘲の笑みを浮かべ、天王を見つめた。
『殺せ!』
 不意に、紫姫魅は顔を歪めた。
「――痛っ……!」
 胸の裡から呪詛混じりの声が響いてくる。
『殺せ。奴を殺して、天の玉座を手に入れろ!』
「……やめ……ろっ……! 玉座など……欲しくはない――」
 紫姫魅は激しい頭痛に耐え、妖魔の誘いをはね除けた。
 だが、己の意識とは裏腹に、利き腕である右手がスッと腰に携えている剣へと伸びた。
 手が吸いつくように黄金の柄をひしと握り締める。
 次いで、足が前に出た。
 一歩、また一歩と足が勝手に動き出し、天王へと近寄り始める。
「何故……妖魔になど憑かれたのだ?」
 天王は黄昏色の瞳で紫姫魅を見据え、静かに彼を待ち受けた。
「私は……ただ、救ってあげたかっただけだ。この世に――生きることに絶望していた少年を……」
「それは、悧魄のことか?」
「そうだ――」
 紫姫魅が低く応えるのと同時に、脳内ではまた妖魔が呪を吐き出す。
『天王を殺せ!』
 悪意に満ちた操りの声――
 紫姫魅の手は、無意識に鞘から剣を抜き払っていた。
 研ぎ澄まされた刃が、陽光を反射してキラリと輝く――禍々しい光だった。
『神という名の者を全て殺せっ! そして、この地に再び我ら妖魔の栄光を!!』
 妖魔の呪詛が紫姫魅の裡で繰り返し鳴り響く。
 転瞬――
 シュッッッ!!
 紫姫魅の剣先が天王目がけて鋭くはね上がった。



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2009.07.07 / Top↑
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