ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
3.邂逅――胎動



 秋も深まったある日――
 アイラは、ファリファナとザラヴァーンと共に宮内を散策していた。
 二人と出歩くことが日課となりつつある。
 何かにつけて、ファリファナはアイラを部屋から連れ出すのだ。
 ルシティナもそれを咎めたりはしないので、アイラは連日、外の空気を吸うことが可能になっていた。
 あれ以来、吐血はない。
 体調は思いの外に良く、体力も回復の一途を辿っている。
 今では『あの喀血は、炎の幻影による強い邪気に当てられただけではないか?』と、思えるほどに身体は健やかだった。
「すっかりお顔の色も良くなりましたわね」
 馬上のアイラを、地上からファリファナが見上げる。
 三人は、白亜宮の裏側に当たる庭に遊びに来ていた。
『馬に乗せて欲しい』とねだるザラヴァーンに、ファリファナが近くの廏から一頭の葦毛馬を連れてきたのである。
 その馬の背に今、アイラはザラヴァーンと共に乗っていた。
 馬に触れるのは、実に一年半振りのことだ。
「おかげさまでね。最近では、散策後の筋肉の痛みもなくなったよ」
 アイラは手綱を取りながら微笑んだ。
 ファリファナは、自分が倒れた後、付きっきりで看病をしてくれたのだ。回復が早かったのは、彼女の手厚い看護のおかげだった。
 長い間使っていなかった身体は随分と筋肉が落ちており、少し前までは歩いただけでも全身が軋むように痛んだ。だが、外へ出るようになってからは、それも解消されている。
「それは良かったですわ」
 ファリファナの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「それにしても、貴女は凄い。いとも容易く私を連れ出してしまうのだから。後でルシティナやラパス王に叱られたりはしないのか?」
 軽く馬を歩かせながらアイラは問う。
「わたくし、信用されていますのよ」
「ファリファナは怒ると怖いからね」
 ザラヴァーンがアイラの腕の中でクスクス笑う。
「太子。くどいようですが、わたくしは信頼されているのですわよ。……でも、確かに、誰に叱られても怖くはありませんわね。わたくしには怖いものなどないのですよ」
「頼もしい人だね」
 笑って応えるファリファナに、アイラは微笑を返した。
 おそらく彼女は、怒りを表現する時、真紅の髪を炎のように揺らめかせ、烈火のような眼差しで相手を射竦めるのだろう。
「嫌ですわ、アイラ様ったら……」
 ファリファナが馬の横を歩きながら微かに頬を膨らませる。
「――楽しそうですね、皆さん」
 背後から声がかかったのは、一同が城と城下を隔てる高い塀の傍までやってきた時のことだった。
「まあ、ルシティナ様!」
 ファリファナが驚きに足を止め、振り返る。
 アイラも馬を止め、背後を顧みた。
「たまには、ご一緒させていただいてよろしいですか?」
 ルシティナが顔に微笑を刻ませながら歩み寄ってくる。
「構わない……」
 簡潔に述べて、アイラは馬を降りた。
「降りてしまうのですか、アイラ様?」
 取り残された馬上で、ザラヴァーンが不思議そうにアイラを見下ろす。
「久々の騎乗で少し疲れてしまいました。ルシティナが来たから、彼に代わってもらいますよ」
「じゃあ、僕も降りる」
 ザラヴァーンが甘えるようにアイラに向かって手を差し出す。
 アイラが小さな身体を両手に抱いた、その時――
 ガツッ!
 と、城壁の向こう側から得体の知れない物音が聞こえた。
 不審に思いながらも、ザラヴァーンを馬の背から降ろす。
 転瞬、ガツッ、とまた岩を引っ掻くような音が耳に届く。
「……ルシティナ?」
 アイラは、異変の確認を求めるようにルシティナに視線を流した。
 ルシティナが無言で頷いた瞬間、
「王太子ザラヴァーン、覚悟っ!!」
 突如として、くぐもった叫び声が頭上から降り注いだ。



 にほんブログ村 小説ブログへ  
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ
スポンサーサイト
2009.07.08 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。