ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 瞬く間に、アイラとザラヴァーンの上に、幾つもの黒い影が覆い被さる。
 反射的にアイラは天を仰ぎ見た。
 視界に、黒い布で目以外の部分を隠した覆面の男たちの姿が飛び込んでくる。
 男たちは城壁の上から飛びかかってきたのだ。
 キラリと鋭利に輝くのは、陽光を跳ね返す剣の刃だろう。
「太子っ!」
 ファリファナの甲高い悲鳴。
「お二人とも退がって下さいっ!」
 ルシティナが鋭く叫ぶ。その手には既に剣が握られていた。
 いつもの温和な表情は消え去り、厳しい顔つきをしている。
「死ね! 王太子っ!」
 真っ先に着地した男が、地面を蹴り、ザラヴァーン目がけて剣を突き出してくる。
 咄嗟にアイラは、彼を庇うようにして身体を前に出していた。
 左腕に熱が迸る。
 敵の刃が服を裂き、皮膚を斬りつけた。
「殿下っ!?」
 顔を突き刺さんばかりの勢いで迫った切っ先は、横から繰り出されたルシティナの剣によって回避された。
 一瞬後、アイラの左腕から血の飛沫が噴き上がる。
「きゃあぁぁっっ!!」
 ファリファナの悲鳴が再び空気を震わす。
「ルシティナ、ザラヴァーン様を!」
 自らの怪我には頓着せず、アイラは俊敏にザラヴァーンをルシティナに手渡した。
「ルシティナ様、太子をっ!」
 ファリファナが、さっきの悲鳴が嘘のような気丈な面持ちでルシティナに駆け寄る。
 彼の手から奪うようにしてザラヴァーンを預かると、彼女は強く少年を抱き締め、その場に蹲った。
 覆面の男たちがザラヴァーンを標的とし、迫る中、
「ファラッ!」
 必死の叫びが谺する。
 ボウッ! と、瞬時にして、彼女を守護するように炎の壁が円状に広がった。
 ファリファナが火の精霊を遣わしたのだ。
 火の精霊の加護がある限り、暴漢たちは二人に近づくことは出来ないだろう。


「どけっ、邪魔をするなっ!」
 ファリファナとザラヴァーンの前に立ちはだかるアイラとルシティナ目がけ、覆面の男たちが殺到する。
「殿下、お逃げ下さいっ!」
 敵の剣を己れの剣で受け止めながら、ルシティナが叫ぶ。
 騒ぎを聞きつけて城から兵士たちがバラバラと出てくるが、まだ現場までは遠い……。
「心配はいらぬっ!」
 ルシティナに応じながら、アイラは間近に迫る男の手に蹴りを放っていた。
「ぐっ……!」
 不意を衝かれた男の手から剣が弾け飛ぶ。
 アイラは、無傷な右手で素早くそれを掴み取っていた。
 剣の柄の感触が、ひどく懐かしい。
 長らく忘れていた感覚が、胸の奥底からまざまざと甦ってきた。
 ――この手に剣が戻った……。
 一年半前までの自分が何者であるのか、アイラは克明に思い出した。
 戦場を駆けた記憶が怒涛のように脳裏を巡る。
 自分は、紛れもなく戦士であり――剣士だ。
 蒼い双眼が冷徹な光を宿した刹那、アイラは剣を手にしたまま疾駆していた。
 振り翳された敵の剣を軽やかに躱わし、相手の胴を剣で水平に薙ぎる。
 悲鳴をあげ、後退る相手を尻目に、アイラは次の敵に向かっていた。
「うおっっっっっ!!」
 咆哮をあげながら、新たな敵が巨大な剣を振り下ろしてくる。
 アイラは剣を逆手に持ち替えた。柄の先で相手の刃を横から叩きつけ、強大な剣を受け流す。
 次の瞬間には再び剣を構え、相手の肩口を斬りつけている自分がいた。
 長き間、剣を手にしていなくても、身体が全てを覚えていた。
 力は衰えていも、《技》は変わらずに己れの裡に残されていた。
「殿下! アイラ殿下、貴方は……!」
 ルシティナの驚愕の叫び。
 何に驚いているのか、推測している暇はない。
 今、アイラの脳裏を占めているのは、頭目格の男のことだけだ。
 先ほどから、言葉を発せずに身振りだけで男たちを動かしている人間がいる。
 華奢で小柄な男――だが間違いなく、それが指導者だ。
 アイラは脇目も振らずにその男の懐に飛び込んだ。
 男が、アイラの出現に驚いたように目を瞠る。
 刃と刃がぶつかり合い、小さな火花を散らした。
「……王……子……?」
 覆面の下から呻きに似た声が洩らされる。
 それは意想外に若々しく、その人物がまだ少年であることを如実に物語っていた。
 覆面の隙間から見え隠れする褐色の肌。漆黒の髪と瞳。
 聞き覚えのある、少年の声――
「まさか……」
 アイラは、男の心臓目がけて突き出そうとしていた剣を慌てて止めた。
「王子……生きておられたのですか……?」
「おま……え――」

 ――キールの者か……?

 続く言葉をアイラは喉の奥に押し留めた。
「王子……。アイラ様、僕です」
 男の手が、アイラが実在するのを確かめるように伸ばされる。
 懐かしい少年の声が自分を呼ぶ。
「ルーク――ルーク・ベイなのか?」
 アイラは思い当たるただ一つの名を口にした。
「賊を討てっ!」
「侵入者を捕らえろっ!!」
 男の手がアイラに髪の触れるのと、カシミアの兵が駆けつけるのが同時だった。
 アイラは剣を持ち替え、男の胸に柄を押し当てた。
「逃げろ」
 男の耳元で囁く。
「アイラ様、一刻も早く祖国へお戻りを」
 男の手がアイラの髪を強く握る。
「逃げろ」
 低く、だが確固たる威厳を込めてアイラは繰り返した。
「アイラ様――――」
 不意に、男が何事かを呟く。
 聞き終えた瞬間、アイラは剣の柄で男を突き飛ばしていた。
「退けっ!」
 男はアイラの意図を察したのか、迅速に部下たちに指示を飛ばした。
 覆面の男たちが一斉に撤退を開始する。
 彼らは、城壁の上で待機していたらしい他の仲間たちの手を借りて、軽業師のような軽快さで次々と高い壁を乗り越えて行くのだ。
 カシミア兵が城壁を見上げた時には、謎の覆面集団の姿はすっかり壁の向こう側へと消えていた。



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2009.07.08 / Top↑
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