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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.07.08[20:19]
「すぐに城下に網を張れっ! 必ず賊を捕らえろ!」
 ルシティナの叱咤のような指示が飛ぶ。
 彼の言葉に、数人の兵士が弾けたように白亜宮へと引き返して行った。
 覆面の男たちが姿を消した城壁を、アイラは茫然と見つめていた。
 垂らした右手から、魂を失ったように剣が抜け落ちる。
「大丈夫ですか、アイラ殿下?」
 地面に転がった剣を拾い上げながら、ルシティナが身を寄せてくる。
「……ああ」
 アイラは城壁から視線を引き剥がし、ルシティナを振り返った。
 血に塗れたアイラの顔を見て、ルシティナは僅かに渋面を作る。
「殿下、怪我の手当をしましょう――」
 静かに告げ、ルシティナはアイラの右手を引いた。
 ルシティナに誘われるまま、城へと踵を返す。
 瞬間、ザラヴァーンをしっかりと胸に抱いたファリファナと視線がかち合った。
 炎のように紅い双眼が、大切なものを傷つけられそうになった怒りに爛々と輝いている。
「アイラ様……ごめんなさい」
 ファリファナにしがみ付くザラヴァーンが泣きそうな顔で呟く。
「ザラヴァーン様のせいではありませんよ」
「でも、狙われたのは僕だし――」
「太子。……太子のことは、わたくしが必ずお護り致しますわ。如何なる時でも、わたくしが太子をお護りします」
 ファリファナがザラヴァーンの頭を撫で、強い語調で断言する。
「うん」
 ザラヴァーンは一度頷き、そのまま項垂れてしまう。
「アイラ様、酷い怪我を……」
 ファリファナはアイラの左腕に視線を留め、苦い表情を見せた。
「……わたくし、忘れていましたわ」
 ふと、ファリファナの瞳が伏せられる。
「あなたが、王子である前に剣士であり――戦士であるということを……。あなたが……太子に仇なすかもしれない、敵国の剣士だということを――」
 ゆっくりと閉じた瞼が開かれる。
 燃える炎のような眼差しが鋭くアイラを射た。
 瞳の奥で、紅蓮の炎が揺れている。
『ザラヴァーンを傷つける存在は、赦さない』と。
「私には、それを否定することはできない」
 アイラはファリファナから視線を逸らさずに静かに告げた。
「……それを覆すことなど、私には生涯できないのだよ」
 もう一度告げ、アイラは止めていた足を動かし始めた。
「アイラ様!」
 ファリファナの切羽詰ったような声が、すぐに追ってくる。
「申し訳ありません。わたくし……わたくし、気が昂揚して、失礼な言葉を申し上げてしまいましたわ。どうか、わたくしの言葉などお忘れになって下さいませ」
 縋るような眼差しがアイラに注がれる。
 アイラは口許に自嘲の笑みを刻んだ。
「あなたが気に病むことではない。全て――真実だよ」
 今度こそ、アイラはファリファナに背を向け、歩き出した。
 ファリファナも二度は追ってはこない。
「アイラ殿下、御手を――」
「いい。一人で歩ける」
 差し出されたルシティナの手を素っ気無く払い除け、アイラは凛然と前を見据えた。
 ここは、祖国キールを滅亡に陥れた敵国カシミア。
 自分の味方など、唯の一人も存在してはいない。

 この地は、魔王の居城――魔物の巣窟だ。



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Category * 紅蓮の大地
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