ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 心配そうに隣を歩くルシティナを無視し、アイラは白亜宮の廊下を歩いていた。
 頭の中は、ザラヴァーンを襲撃した賊のことで埋められている。
 ファリファナの言葉に苦い想いを抱かなかった、と言えば嘘になる。
 しかし今は、それよりもキール兵の残党らしき闖入者のことが気に懸かった。
 褐色の肌に、黒い髪と瞳の少年――ルーク・ベイ。
 懐かしい知己が、突如として目の前に現れた。
 その驚愕。そして、郷愁と嬉々。
 ――生きていた。
 アーナス死亡の報がもたらされた時、少年も共に手の届かぬ世界へと旅立ってしまったと決めつけていた。だが、その考えは間違っていたのだ。
 今日出逢ったのは、亡霊でも幻でもなく、生身の少年だった。
 妹――アーナスの側近。
『女神の片腕』と呼称されていた、少年剣士。
 アイラと少年は、同じ人物から武術と剣技を学んだ。
 アイラにとって少年は、弟弟子――いや、『弟』と呼んでも過言のない存在なのだ。
『アイラ様、必ずお迎えに上がります』
 去り際の少年の言葉が、耳の奥で谺する。
『キールで、アーナス様がお待ちです――』
 その一言は、アイラの胸に痛切に響いた。
 アーナスの首は賊に奪われた――ラパスがそう告げたことがある。
 おそらく、その首をラパスから取り返したのが少年なのだろう。
 妹の首は、少年の手により祖国へ還り、何処かで安らかな眠りに就いているのだ。
 妹の眠りが護られていることに、アイラは安堵を覚えた。
 もう二度と、剣を持つことも、血に塗れることもなく、妹は眠りに揺られている。
 この後の血生臭いことは全て――自分が引き継ごう。
 この身に背負おう。
 再び、キールに緑溢れる豊かな大地と人々の朗らかな笑顔が戻る、その日まで――
 ――私は必ず、この足で今一度キールの大地を踏み締める。
 アイラは、胸に垂れる首飾りを痛いほど強く握り締めた。



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2009.07.08 / Top↑
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