ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 三国統一を成し遂げた偉業の王――ラパス・エンキルドは、自室の窓際に佇み、果実酒を堪能していた。カシミア南部で収穫される果物を数種混ぜ合わせて造られた一品だ。
 瑠璃の杯で揺れる紫紺の液体を眺め、ゆるりとそれを唇に寄せる。
「失礼します、陛下」
 果実酒が軽く唇に触れたところで扉が開き、見慣れた黒ずくめの青年が入室してきた。
「ザラヴァーンが狙われたそうだな? 騒ぎは収まったのか、ルシティナ」
 ラパスは杯を唇から離し、信頼する親衛隊長を見遣った。
「城内での騒動は」
 恭しく一礼した後、ルシティナは苦笑する。
「賊を追跡させていますが、おそらく討つのは無理でしょう」
「ほう。おまえに、そこまで言わせるほどの者どもか?」
 ルシティナの報告に、ラパスは唇を歪めた。
「俺も、しかと顔を見たわけではないのですが、首領の少年――かつて戦場で見かけたことがあります」
「少年? 子供が首謀者か……」
「ただの少年ではありませんよ、陛下。あれは、確か――ルーク・ベイです」
「なるほど。余も、ギルバード・アーナスの傍にいるのを一度見たことがあるな」
 ラパスの口許に更なる冷笑が刻み込まれる。
「そうです。『女神の片腕』と呼ばれていた少年です」
「では、城下の警備兵の手には負えぬな。余の膝元から、ギルバード・アーナスとミロの首を奪っていった奴だ」
 自嘲めいた言葉を吐き出し、ラパスは杯の中の果実酒を一口呑み込んだ。
「ザラヴァーンは無事だったのか?」
「王太子殿下は御無事です」
「それならよい。あれは、余の大切な――兄上の忘れ形見だ」
 自ら手にかけた兄を『大切な』と呼び、ラパスは再び果実酒を口に含む。
「王太子殿下に怪我はございませんが、アイラ殿下が左の腕に傷を負われました」
 ルシティナは、ラパスの兄――先王サマリについては何の言及もなさずに話題を転じた。
「アイラが? 何故に?」
「王太子殿下を護ろうとして、剣をお取りになりました」
「アイラが、な……。滅多に見れぬ壮麗な光景を目にすることができただろう?」
「はい。正直言って、驚きました。アイラ殿下が、あれほど剣技に長けていたとは」
「あれは一見温和そうに見えるが、本気で牙を剥くと怖い。裡に秘めたものは、ギルバード・アーナスと同じだ」
「実際、ギルバード・アーナスが剣を振るっているような錯覚に陥りましたよ。でも、アイラ殿下の剣技は妹君とは違いますね。流麗で繊細――それでいて鮮烈で華麗。まるで、舞踏を見ているようでした。剣で人を斬っている姿を綺麗だと感じた人間は、アイラ殿下が初めてです」
 ルシティナの頬が、興奮と緊張を具現するように微かに紅潮した。
 それを見たラパスの唇から笑い声が洩れる。
「惚れたか、あれに?」
「陛下――」
 困惑と非難を表わすように、ルシティナがラパスを見返す。だが、それはすぐに純粋な笑顔に取って代わった。
「いえ、俺は確かにアイラ殿下に魅せられました。一度、手合わせをしてみたいです。ですが、その反面、剣を交えるのが怖いです。あの方を傷つけるのは偲びないと思いながらも、俺は、あの綺麗な身体を意のままに切り刻んでみたいという衝動に駆られるのです」
「酔狂なことだな」
「……陛下ほどではありませんよ」
 不服そうに告げるルシティナに、ラパスは彼独特の冷たい笑みを向けた。
「余は、欲しいものは己が手で掴み取る。余の意に添わぬ時には、容赦なく斬り捨てる。どれほど余が愛するものでもな。余には一生涯《滅び》と《闇》が纏わりつく。それが、魔剣ザハークを手にした者の因果――宿命だ」
 独り言ち、ラパスは黒曜石の瞳で愛剣を一瞥する。
「アイラの生存が、キールの残兵に知れてしまったな。近い内にキールで叛乱が起こる」
 予言めいた言葉を紡ぎ、ラパスは残りの果実酒を一気に呑み干した。


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2009.07.08 / Top↑
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