ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 アイラが五歳か六歳の頃、レンボスと出逢った。
 毎日繰り返される、剣術・馬術・帝王学――その他諸々の王子として教育に辟易していたアイラは、単身城下に飛び出したのだ。
 幼い王子の姿など目にしたこともない民は、アイラの正体に気づくことがなかった。
 アイラは自由気儘に民と触れ合った。
 活気溢れる市で様々なものを見聞きし、広場で遊ぶ子供たちに混ざって、それまで体験したことのなかった遊びを教えてもらう。
 アイラにとっては、どれもが鮮烈で斬新な出来事だった。
 そして、疑問に突き当たる。
 アイラの生活の場――王宮では、皆華やかな衣服を身に纏い、豪華な食事を当然の如く行っていた。
 なのに、民は違う。
 今にも膝の擦り切れそうなつぎはぎだらけの衣服を身に着けている。食せるものなら何でも食材にし、あますところなく綺麗に平らげる。家は粗末な石造りで、その小さな箱の中で大勢の家族が生を営んでいた。
 この違いは、一体何なのだろうか?
 当時のアイラには、身分による生活の違いなど、全く理解に及ばなかった。
 それでも『何かがおかしい』『民にも王宮のような生活をさせてあげられないだろうか?』と、子供心に深刻に思い悩んだのだ。
 何度か忍んで城下に出るうちに、広場で子供を相手に勉学を教えている男に出逢った。
 レンボスと名乗った男は、驚くほどに知識が豊富で、庶民の生活様式に精通していた。
 ――この男を通して、民が何を望み、何を求めているのか、解るかもしれない。
 単純に、アイラはそう考えたのだ。
 民を理解するには、アイラは幼過ぎた。誰かの手が必要だった。
 それは、王宮に住まう父や母では駄目なのだ。民を知悉する、同じ民でなければ。
 民の生活を改善するためには、もっと多くの情報と知識が必要だった。
 アイラは、レンボスのような人物を求めていた。
『どうして、学があるのに王宮で働かない?』
 かつてアイラは、レンボスにそう訊ねたことがある。
『学や知識があっても、地位と名声――金がないと王宮へは上がれない。良家に生まれ育たなければ、どんなに長けた才能があっても、王の身辺に遣えることは叶わないのだ』
 レンボスは皮肉げに笑いながら、そう答えた。
 レンボスの言葉は、アイラの胸に強烈な楔を打ち込んだ。
 自国の社会制度に疑問と問題を感じずにはいられなかった。
 身分――貴族階級を優遇して、有能な一庶民を排除していたのでは、国は良くならない。
 レンボスの言葉で、アイラは決心した。
『私と一緒に来ないか?』
 身分を明かし、レンボスに手を差し伸べたのだ。
 そしてレンボスは、その手を取った。
 王宮へ戻り、父である国王にレンボスを自分の教育係にすることを強引に承諾させた。
 その後、レンボスは己れの才能を澱みなく発揮し、副宰相の地位にまで上り詰めたのだ。
 副宰相に就任した直後、レンボスは個人的にアイラに報告をしに来た。
 その時に、彼は誓約を述べた。
『わたしは生涯、殿下の御傍を離れません。如何なる時であろうとも、必ずや殿下を護ってみせます。わたしは、決して殿下より後には死にません――』
 そこまで言い切った男が、今になって自国を――自分を裏切るだろうか?
 アイラには、フェノナイゼの報告が到底信じられなかった。
 いや、信じたくなかった。



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2009.07.08 / Top↑
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