ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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4.魔王の刻印



 大陸暦一二八六年・晩秋――


 カシミア統合後の旧キール国内で、ある一つの噂が囁かれるようになった。
 カシミア兵の監視の目を潜り抜けるようにして、キールの民に――大地に蔓延した噂。

『アイラ王子が生きている』

 戦禍で荒れ果てた大地を潤すようにして、その流言は瞬く間にキールの地に浸透した。
 噂は日々翼を広げ、際限なく羽ばたくようになっていた。

『第二王子は生きている――だが、カシミアで囚われの身となっている』
『アイラ殿下は、日夜、残酷な拷問を受けている』
『アイラ様は、逃げ出さないように四肢を切断された』
『近々、王子の公開処刑が行われるらしい』

 様々な話が人々の間を飛び交った。
 そして、民は想う――考える。
 愛するアイラ王子を助け出さなければ、と。

 誰もが、平和な日常を取り戻したがっていた。
 大部分の者が、元来の主――ギルバード王朝の復活を夢見ていた。
 腕に覚えのある男たちは、カシミア兵を嘲笑うかのように闇に潜み、密談を繰り返し始める。
 これまでカシミアの制裁を恐れ、隠匿していた旧キールの貴族たちが、全財産を抱えてリーシェンタ公マロイの元を訪れるようになった。
 戦前まで武器屋を営んでいた男は、北の隣国ブレアに赴き、大量の武器を密輸した。
 鍛冶屋だった男は、瓦礫の山のようになった自店に潜み、真夜中にのみ炉に火を入れ出した。
 薬の調合師だった女は、薬草を求めて再び山に入るようになった。
 家庭を護る女たちは、僅かな食料の更に一部を保存性の高い乾物に加工し、密かに兵糧を蓄え始めた……。
 決して表沙汰にならないようにして、人々は水面下で動き始めた。
 迫りつつある局面を意識した。
 準備を開始した。
 決断した――
 戦を。

『我々は国を攻め滅ぼしたラパスを赦さない。ラパスの統治を認めない。アイラ王子を殺させはしない。ラパスに裁きを! アイラ王子と我々に――自由と解放を!』
 そう宣言し、人々は起った。


 旧キール――かつてカシミアとの国境付近に位置していたマバリタの街で、カシミア兵に対する叛乱が巻き起こったのは、冬も間近に迫ったある日のことだった……。



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2009.07.09 / Top↑
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