ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「出発の準備をなさって下さい、アイラ殿下」
「――今、何と言った?」
 アイラは、鋭利な視線を眼前に立つルシティナに投げzけた。
 部屋に入って来るなり、ルシティナはマバリタの叛乱のことを報告してきのだ。
 マバリタで旧キールの民がラパスに対する反抗を試みた。それは、現在も続行されている。
 ゆえにラパス自らが討伐に出向く、というところまでは頷ける。問題は、その先だ――
「ですから……アイラ殿下にも行軍に加わっていただきます」
 ルシティナがひどく生真面目に応える。どう考えても、先刻の言葉と意味は同じだ。
「……何故?」
 ラパスの出征にアイラが付き合わなければならない理由が解せない。
 いや……理由があるとしたら、ただ一つだけだろう。
「陛下がそれをお望みです」
 ルシティナが珍しく顔から表情を消し、淡々と言葉を紡ぐ。
 彼の言質から、アイラはラパスの目的を確信した。
 ラパスは民の乱を鎮めた後、衆前にアイラを引き出す気なのだ。
 アイラを楯に取り、キールの民に反抗の無意味さを――歯向かえばアイラの首が飛ぶということを知らしめるつもりなのだ……。
「私には、それを拒む権利はないのだろう?」
 溜息混じりの言葉は、ルシティナの無言で肯定された。
「……アイラ殿下。行中、御身に危険が及ぶようなことは決してありません。有り得ぬとは思いますが、どうか逃げようなどと――」
 沈黙が重く圧しかかろうとした時、ルシティナが痛ましげな面持ちで口を開いた。
「解っている……」
 アイラはルシティナの言葉を遮るように軽く片手を振った。
 逃走の隙さえあれば、自分は間違いなくそうするだろう。
 だが、ラパスは絶対にそれを赦さない。
 逃げ出せば、ラパスはマバリタの民を虐殺するだろう。
 その次は他の叛乱地域に出向き、同じことをするに違いない。
 それは、アイラが姿を現すまで際限なく続けられるだろう。
 キールの民のことを考慮すれば、アイラには逃げ出すことなど不可能なのだ。
「私は、祖国に……民を虐げる道具として強制連行されるわけだ」
「殿下……」
 ルシティナが顔を歪める。
「好きにするといい」
 投げやりにアイラは吐き捨てた。
 そのままフイッとルシティナから顔を逸らす。
「俺は、陛下の護衛に付くので御傍にはいられません。代わりに、信頼のおける人物を殿下の傍近くに遣えさせます」
「――で、その、私の監視者というのは?」
 ルシティナに視線を戻し、アイラは皮肉げに笑ってみせた。
「ルフィカスタ伯爵です」
 逡巡もなくルシティナが返答する。
「ルフィカスタ……?」
 どこかで聞いた名前だった。
 だが、すぐには思い出せない。
「今、お呼びしてきます」
 アイラの困惑を察したのか、ルシティナが敏捷な動きで扉の外へと消えて行く。
 再び扉が開いた時、ルシティナの隣には一人の人間が立っていた。
 鮮やかな真紅の髪が視野で揺れた時、アイラは驚愕に目を瞠った。
 眼前で、見慣れた顔が笑みを象る。
 紅い双眸が、真っ直ぐにアイラを見つめた。
「ファリファナ・ルフィカスタ――只今、参りました」



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2009.07.09 / Top↑
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