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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.07.09[23:16]
 刃が肩を直撃する寸前で、天王はヒラリと紫姫魅の攻撃を躱す。
「久那沙……早く――殺してくれ……!」
 紫姫魅の口から哀願するような声が洩れる。
 しかし、彼は言葉とは裏腹に体勢を立て直し、再び剣を青眼に構えた。
 明らかに天王に対しての攻撃の意がある。
 全身から陽炎のような殺気が揺らめいていた。
「私を……殺してくれ――」
 苦しげに呻く紫姫魅。
 紫姫魅の愛刀が徐々に淡い紫光を纏い始める。
 天王がそれに気づいたと同時に、紫姫魅が剣を水平に薙いだ。
 刀身から紫光の刃が放たれる。
「――――!?」
 咄嗟に天王は後ろに飛び去り、襲い来る三日月型の光の刃に向けて右手を差し出した。
 瞬く間に、掌を中心として黄金色の光が膜を造った。天王は飛来する紫の刃を片手で受け止め、そのまま腕を横に振った。
 紫姫魅の攻撃が軌跡を変える。
 ドォォォォーンッッッ!!
 激しい爆裂音が響き、地が轟いた。
 庭園の一角が凄まじい力によって吹き飛ばされ――消滅する。
 だが、天王も紫姫魅もそれには露ほども関心を示さなかった。
 両者は互いから目を逸らさず、向き合ったままだ。
 紫姫魅の裡に巣くう妖魔の殺意は、本物だった。
 天王が少しでも紫姫魅から目を逸らせば、妖魔は隙を突いて第二撃を繰り出してくるだろう。
 天王は、己を守護する金色の《結界》を全身に張り巡らせた。
 対する紫姫魅は、再び剣を構え直そうとしている。その切っ先は、不自然に震えていた。おそらく、体内で紫姫魅と妖魔の意識が争いを繰り広げているのだろう。
「早くっ……久那沙――殺してくれっ!」
 紫姫魅の痛切な叫びが、天王の胸に響く。
 天王は剣の柄に手を伸ばしかけ――寸前で、その手を握り締めた。
 まだ躊躇していた。
 紫姫魅を殺すのが最善の策だと判断を下していながら、感情がそれを実行に移すことを拒んでいた。
 大切な唯一の友を己が手にかけることを……。
「紫姫魅、おまえは――後悔してはいないのか?」
 天王は、苦毒を呑み干すような声音で問いかけた。
「……していない」
 紫姫魅からは意外にも明瞭な応えが返ってきた。
「七天には――あの者たちには……すまないことをしたと思う……」
 ふと、紫姫魅の端整な顔に憂慮の色が浮かび上がる。
「だが、悧魄を助けるために……この身を妖魔に売り渡したことは――後悔していない」
 紫姫魅の黒曜石のような双眸がひたと天王を見つめた。
 妖魔に支配されていない瞳は、哀しいほどに高潔で――美しかった。
「最期に……こうして、おまえにも逢えた……」
 不意に、紫姫魅の表情が翳る。
「久那沙……《友》とは、随分と便利な言葉だな――」
「……紫姫魅?」
「今のは……私が綺璃に告げた台詞だ……。謝っておいてくれ。あれは、私自身に対する皮肉なのだ、と……。おまえたちが羨ましかったのだ、と――」
「一体、何のことだ?」
「……今も昔も……この先の未来も――私の《友》はおまえだけだ、久那沙」
 紫姫魅の顔にゆっくりと笑みが広がる。
 喩えようもなく鮮やかで、それでいて儚げな不可思議な微笑だった。
「紫姫……魅――――!?」
 無意識に紫姫魅に歩み寄ろうとしていた天王だが、一歩踏み出したところで慌てて動きを止めた。
 紫姫魅の双眼に禍々しい光が閃いたのだ。
 形の良い唇が真横に引かれ、ニィッと口角がつり上がる。
 凶悪な妖魔の貌が、紫姫魅を浸食するように表層に現れ始める。
「私は……後悔など……してはいない。だから、久那沙……早く――殺せっ!!」
 妖魔を必死に抑える紫姫魅――喉の奥から血の滲むような叫びが迸った。



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