ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 すぐに、騒然とした宮中の光景が飛び込んできた。
 至る所で、カシミア兵とキール兵が死闘を繰り広げている。
 兵士たちの怒号、悲鳴。
 剣と剣がぶつかり合う金属音。
 血の臭い。
 戦場と化した宮殿の光景に、アイラの心は奇妙に高鳴った。
 ――これが最後だ。
 緊張と昂揚に、きつく唇を噛み締める。
「王子だ! キールの王子が脱走したぞっ!!」
「逃がすなっ!」
 目敏くアイラの姿を確認したカシミア兵が、驚愕の叫びをあげる。
 瞬く間に、長い回廊をカシミア兵が塞いだ。
「あなたを愛してる」
 唇の戒めを解き、アイラは心のからの言葉をファリファナに贈った。
「わたくしもですわ、アイラ様」
 軽く微笑み合い、二人は繋いだ手を静かに離した。
「私より前に出ないように――」
 アイラはレイピアを鞘から抜き払った。
「アイラ様の負担になるのは嫌ですわ。自分の身は、自分で護ります」
 ファリファナが気丈にも短剣を両手に握り締める。その瞳から既に涙は引いていた。
 アイラは、それ以上何も言わずに鞘を床に投げ捨てた。
 二つのレイピアを、それぞれの手にしっかりと握る。
 懐かしい感触がした。
 レイピアを持つのは、これが最後になるだろう。
 病で衰弱した肉体には限界がある。
 精神力だけで、どこまで保つだろうか?
 計算しかけて――やめた。
 そんな計算など、何の役にも立ちはしない。
 実質、一年半以上、剣を持って戦っていないのだから……。
 限界が訪れる、その瞬間まで突き進むしかないのだ。
「キールの王子を捕らえろっ!」
「決して逃がすなっ!!」
 必死の形相でカシミア兵らが詰め寄ってくる。
 アイラは冷静にレイピアを構え直した。
 ファリファナを護るために、ここまで乗り込んできたキールの民に応えるために、己れの意志を貫き通すために――鬼と化そう。
 ラパスの息の根を止めよう。
 残された時間は、僅か。
 最後の舞台だ。
 アイラは迫り来るカシミア兵に視点を据えた。
 蒼い両眼に冴え冴えとした光が輝く。
 王子から剣士へと意識が切り替わる瞬間だった。
「うおぉぉぉっっっ!」
 カシミア兵の一人が、アイラに向かって大きく剣を振り翳す。
 アイラの身体は軽やかに、床を蹴っていた。
 振り下ろされる剣の刃をかいくぐり、相手の懐に飛び込む。
 同時に、右のレイピアが鮮やかに相手の喉を水平に掻き切っていた。
 確かな肉の手応えがあった。喉を切られ、相手は悲鳴をあげられずに一歩後退した。
 僅かに遅れて、血の噴水が喉から迸る。
 アイラの頬にも返り血が付着した。頬を伝う血が唇に流れ落ち、口内に広がる。
 生臭い血の味を感じた刹那、肉体の痛み、気怠さが一気に飛散した。
 精神を占めるのは『殺さなければ、殺される』という概念のみ。
 ここは紛れもなく戦場。
 そして、アイラは紛うことなき剣士だった。
「王子を逃がすなっ!!」
「殺してでも、この宮殿から出すなっ!」
 カシミア兵の憤怒と驚愕の入り混じった叫びが飛び交う。
 目の前に突き出された刃を見た瞬間、アイラの身体は高く跳躍していた。
 左右のレイピアがカシミア兵の両肩を同時に裂く。
 態勢を崩した男の頭を踏み台にし、更に跳躍する。
 落下地点には、剣を振り上げる新たな敵がいた。
 アイラは敵の剣を左のレイピアで払い、残る一方のレイピアの切っ先をその眉間に打ち込んだ。そのまま落下速度を利用して、剣に体重を乗せる。
「ぎゃあぁぁぁっっっ!」
 眉間を打ち抜かれた男は、容易に床に倒れた。
「ファリファナ!」
 仰向けに倒れた男の頭に足をかけ、一気にレイピアを引き抜く。
 ファリファナが隣に並んだのを確認して、アイラは俊敏に床を蹴った。
 立ち止まっている暇はない。
 目指すは、ラパスだ――


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2009.07.11 / Top↑
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