ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 大陸歴一二八四年・陽春――


 春の陽気に包まれた王城の回廊を、少年は軽やかな足取りで進んでいた。
 褐色の肌に漆黒の髪と瞳を持つ少年の名は――ルーク・ベイ。
 十三歳という若さでありながら、烈光の女神と謳われるキール王女――ギルバード・アーナス・エルロラの片腕として早くも頭角を現している少年剣士だ。
 窓から射し込む陽の光に誘われて、ルークはふと足を止めた。
 露台へと続く巨大な窓が大きく開かれていた。そこから芳しい花の薫りと微かな話し声や笑い声が流れ込んでくる。
 ルークは迷わずに露台へと足を運んだ。
 午后の光が燦々と降り注ぐ。
 その暖かさを心地好く感じながら、ルークは露台の手摺りに手をかけ、階下を覗き込んだ。
 光溢れる中庭は色取り取りの春の花々で満たされている。
 その中に銀色の輝きを発見した。
 絹の如き美しさを放つ銀髪――愛すべき王子が、数人の侍女や従者に囲まれて庭園を散策していた。
 王子の姿を確認した瞬間、ルークは心がパッと明るくなるのを感じた。
 こんなに間近で彼の姿を目撃するのは、随分久し振りのような気がする。
 ――アイラ様だ!
 声には出さずに胸中で歓喜の叫びあげる。
 すると、まるでその声が聞こえたかのようなタイミングで王子が顔を上向けた。
 深い海のような双眸が宙を彷徨い、やがてルークを捕らえる。
 ルークの姿を認識した瞬間、王子がふわりと微笑んだ。
 麗らかな春に相応しく、優しさと慈愛に満ちた美しい笑顔だった――



       春爛漫



 宝物が三つある。

 一つは、絶対的なご主人様であるギルバード・アーナス・エルロラ。
 もう一つは、密かな想い人であるイタールの《月光の美姫》――ローズ・マリィ・レイクールン王女。
 そして、最後の一つは、兄弟子に当たるギルバード・アイラ王子だ。

 ルーク・ベイは、自分の斜め前を歩く後ろ姿に真摯な眼差しを向けた。
 この三人のためなら自分は全身全霊を捧げられる――子供心にもそう強く想う。
 もちろん国王や王妃や王太子のことも他の城の住人たちも大好きだが、この三人は別格。ルークの裡では他者とは次元の異なる特別な位置に属している。
 中でもキールの第二王子アイラは、ルークにとって実の兄のような存在だ。深い親愛の情を抱いている。
 歩く度にサラサラと揺れる銀髪を目で追うだけで、ルークの胸は不思議な昂揚感と幸福感に包まれた。
 アイラは、本来ならば決してルークのような庶民が近づくことも傍にいることも許されぬ高貴な存在だ。
 ルークの両親は彼が幼い頃に戦死している。以後、ルークは両親の友人である剣士に育てられるのだが――その剣士に師事していたのがアイラだったのである。
 ルークとアイラは師匠の元で共に学び、剣技を磨いてきた。ゆえに、現主人のアーナスに対するものとは別種の情愛をアイラには抱いている。
 ルークの剣の腕を見込んだアイラと師匠の計らいによりアーナスの従者となかったが、それは即ち彼からの巣立ち――独り立ちでもあった。
 アーナスという光輝く宝珠の傍らに立ち、彼女を護り、彼女に尽くすことは、とても誇らしく、嬉しくもある。かなりやり甲斐のある使命だ。
 だが、以前のように気軽にアイラや師匠に逢えなくなったことは、やはり少々寂しい……。アーナスには口が裂けても言えないが。
「ルーク――いつまで後をついてくる気だ?」
 不意にアイラが立ち止まり、身体を振り向ける。危うく王子にぶつかりそうになり、ルークは慌ててうつつに立ち返った。
「えっ? ずっとついて歩いちゃ駄目ですか?」
 ルークは恐る恐るアイラを見上げた。庭でアイラの姿を発見してから、何をするわけでもなく彼の後を追い続けていたのだ。流石に普段は穏和なアイラも鬱陶しく感じたに違いない……。
 アイラの冴え冴えとした蒼い双眸がじっとルークを見下ろす。
 主人であるアーナスとよく似た面差しをしているのに、何故だかアイラに見据えられると心臓が高鳴り、血液がざわめく。おそらく、アイラ以上に美しい男を見たことがないからだろう。アイラの美貌は、同性のルークから見ても頗る魅力的なのだ。
「アーナスが不在だから暇なのは解るけど――私はこれでも多忙の身なんだよ」
 アイラの目元がフッと緩む。だが、彼の口から漏れたのは困ったような溜息だった。
 王子を困らせている。
 その事実にルークの胸は小さな痛みを発した。
 だが、暇だからつきまとっているわけではない。
 アーナスは婚約者であるミロ王子に逢うためにイタールへ赴いている。この度のイタール訪問にルークは連れて行ってもらえなかったのだ。
 当然、意中のローズ・マリィにも逢うことが出来ずにふて腐れていた――心がささくれ立っている。
 そんな時に久し振りにアイラの姿を視野に納めることが出来、更には傍に寄れる機会が訪れたのだ。可能な限り王子と一緒にいたかった。アイラの傍にいるだけで、アーナスに置いていかれた不満や不安――寂しさが見事に払拭されるのだ。
「ルーク、時間を持て余しているのなら剣の腕を研磨――」
 ルークが押し黙っていると、アイラはやや厳しい口調で言葉を紡ぎ始める。
 だが――
「子供にはもっと優しくしろ、アイラ」
 予期せずして、それを別の声が遮った。



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2009.07.12 / Top↑
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