ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
「何だよ、ユイ? もっと静かに閉めろよ」
 突然の大きな物音に驚いたらしく、透がギョッとしたようにソファから起き上がる。
 ユイは、震える唇を噛み締めながらゆるりと透を振り返った。
 次いで、手からビニール袋が離れ、ドサッと床に落下する。
「……と、透――」
 ユイは覚束ない足取りで透の傍へ戻った。
 血の気の失せた真っ青な顔を透へ向ける。
「顔、青いぜ。――貧血か?」
 透がユイの異変に気づいて軽く眉根を寄せた。
 不思議そうな――不審そうな眼差しが、じっとユイに注がれている。
 ユイは無言でかぶりを振った。
 力なく透の傍らに頽れる。
「……違うの……そうじゃ……ないの」
 ユイは、喉に片手を当てながら苦しげに呻いた。
「おまえ、凄い冷や汗だぞ?」
 透の指がユイの額に触れ、滲み出る冷たい汗を拭う。
 透の指の熱さが妙に気持ちよかった。
 ユイは数度深呼吸し、乱れた息を整えようと努めた。
「……透。冷蔵庫のアレ――何?」
 嫌悪の眼差しを透に向け、かたてで冷蔵庫を指差す。
「えっ? 何って……?」
 透が首を傾げる。ユイの言わんとすることが理解できないのだろう。
「あっ……!」
 数秒考えた末に、透は唐突に目をしばたたかせた。
「ひょっとして、スイカのことか?」
「そうよ。何で、アレがあるのよっっ!?」
 透の言葉を聞くなり、ユイは声を荒げた。

 西瓜。
 夏の定番。
 赤い果肉に数え切れないほどの醜く黒い種子が散らばっている、おぞましい食べ物。

 真っ二つに切り分けられ、ラップをかけられたソレが、冷蔵庫を我が物顔で占拠しているのだ。
 その姿を思い出すだけでもゾッとする。
 あの、小さく黒い種が、ユイを呪縛する。
 今にも襲いかかってきそうで――怖い。

「何、怒ってんだよ? 今日、ユイの実家から宅配便で届いたんだよ。ユイが帰ってきたら一緒に食べようと思ってさ、冷やしといたんだ」
「余計なことしないでっ!」
 ユイはキッと透を睨めつけた。
「オイ、おまえ……ちょっと変だぞ? スイカを切ったくらいで――」
「やめてっ! ダメなのよ、わたしっ!!」
 ユイは青ざめた顔で透を見つめ、彼の言葉を乱暴に遮った。
「ダメって、何が?」
 怪訝そうな透の表情と視線。
 ユイは、口内に溜まった唾液を大きく呑み込んでから、震える声で告げた。
「ダメなの、わたし……あの――種が」
「はっ? 種?」
 透が益々不可解だというように眉を跳ね上げる。
「……わたし、《種恐怖症》なの」
 ユイは縋るような眼差しで透を見上げた。
 透は《種恐怖症》という言葉が耳慣れなかったらしく、唖然と瞬きを繰り返している。
 透がその言葉を疑問に思うのは当然のことだ。
 それは、ユイが己の特異体質に勝手に命名した病名なのだから……。
「ダメなのよ、わたし……。一センチ前後の小さな種の塊を見ると、怖いの。あの、群がっているのを目にすると虫に見えて――今にも動き出しそうな気がして、気持ち悪いの……。特にスイカはダメ……。黒い種は最悪――」
 喋っているうちにまたスイカの断面を思い出して、ユイは身震いした。



 にほんブログ村 小説ブログへ  

← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.07.12 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。