ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 充と直杉に去られ、結局、水柯は希望通りに樹里と下校することになった。
 久々に樹里と一緒に帰宅できる喜びに、水柯は密かに胸を高鳴らせながら教室を後にした。
 しかし、廊下に出た瞬間――
「おっ、貴籐(きとう)じゃないか。ちょっと待て」
 背後から呼び止められてしまったのである。
 立ち止まり、背後を顧みると、数学教師の持田がこちらへ歩み寄ってくるところだった。
 持田は五十代前半の、気のよさそうな面持ちをした男だ。
 生徒たちの評判も悪くはない。
「何をやらかしたんだよ?」
 樹里が舌打ちを鳴らし、水柯に非難の眼差しを投げてくる。
 水柯は『解んない』と首を竦めてみせてから、持田を強張った顔で見つめた。
 穏和な教師のことは嫌いではないが、彼の担当する数学という学術がとても苦手だった。
 テストの結果は、いつも赤点かギリギリセーフという惨々たるものなのだ。
「中間テストに向けて、ちゃんと勉強してるか?」
「は、はい。してます、してます!」
 持田の問いかけに、水柯は必要以上に力強く頷いた。
「今度赤点を取ったら、追試は免れんぞ」
「解ってます。そうならないために、ママ――っと、母に教えてもらってますから」
 持田の用件が大事ではないことに安堵し、水柯は笑顔で応じた。
 次に赤点を取ったとしても落第するわけではないのだ。
 追試を受けるだけでいいなら戦々恐々することもない。
「おお、そうだったな。桐生くんは元気かな? それに貴籐先生も」
 持田が昔日を懐かしむように、普段から柔和な顔を更に和らげる。
『桐生』というのは、水柯の母――蒔柯(まきえ)の旧姓だ。
『貴籐先生』というのは、父の貴籐聡のことを指している。
「はい。父も母も元気ですよ」
「そうか。懐かしいな。もう十七、八年も経ってしまうな。桐生くんが生徒会長で、貴籐先生がこの学園の美術教諭だったのは。才色兼備の生徒会長と新任教師の恋愛は、当時の学園に大論争と大騒動を巻き起こしたもんだ」
「はぁ。完璧にスキャンダル……ですもんね。そうして生まれてきたわたしとしては、どうコメントしていいのか解りませんけれど」
 水柯は、恥ずかしさと困惑が混在するような曖昧な笑みを浮かべた。
 母の蒔柯は、聖華学園に在籍していたことがあるのだ。
 しかも、生徒会長を務めていた。
 二年の時に、新しく赴任してきた美術教師・貴籐聡と瞬く間に恋に落ち――在学中に水柯を妊娠したのだという。
 子供を産む決心をした蒔柯は、二年の三学期終了と同時に学園を退学している。
 聡の方も学園を騒がせた責任をとって教職を離れた。
 その後、二人は入籍し、水柯が生まれたのである。




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2009.05.27 / Top↑
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