ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 クスクス……クスクス……。
 笑い声は何処からともなく聞こえてくる。
 ユイはハッとして、素早く周囲に視線を配った。
 だが、室内に異様な変化は見受けられない。
『……あんた、なに馬鹿なこと言ってるの? 慎くんはとっくの昔に亡くなってるのよ。あんたのことを殺せるはずがないでしょ』
 静寂を打ち破るように、幸枝が呆れ声で告げる。
「でも……ううん、だからこそ『呪い』とか『化けて出る』とか――」
『そんな馬鹿な話、現実にあるわけないでしょ。夏だからって怖いテレビ観すぎて、影響受けてるだけなんじゃない。呪いだなんて馬鹿馬鹿しい。いくら慎くんが《首吊り神社》で亡くなったからってねえ――あっ!』
 そこまで喋ってしまってから、幸枝は急に口を噤んだ。
「お母さん、《首吊り神社》って何よ? それって、小学校の裏手の山にあったボロい神社のことでしょ?」
 脳裏に、赤錆びた鳥居と今にも崩壊しそうな階段、そして廃屋のような社が浮かび上がる。
 ユイの通っていた小学校から一キロほど離れた山の中腹にあった廃社だ。
 正式な名称は、覚えていない。
 地元民もみな《首吊り神社》と呼称していた。
『首を吊って自殺する者が後を絶たないから《首吊り神社》なのだ』と、祖母が語っていたことが朧に思い出される。
 誰も寄りつかないような荒れ果てた境内は、自ら生命を絶つには格好の場所だというのだ。使用されることのない山中の廃社なので、他人に発見される確率も低く、世を捨てることに邪魔が入る懸念もない。
 そこが本当に首吊りのための神社だったのかは定かではないが、小学校の先生たちも『あそこには行ってはいけない』と口を酸っぱくして児童たちに注意を促していた。
「シンちゃんは、どうしてあそこで死んだの!?」
 ユイは、無言を保つ母を厳しく問い詰めた。
『《首吊り神社》で亡くなった』イコール『自殺した』ということではないのだろうか?
『どうして、って……。母さん、あまり言いたくないわねぇ。それに実際、詳しいことは……あんたたち全員頑なに喋ろうとしなかったしねぇ……。どうしても知りたいなら、アヤちゃんにでも訊いてみたら? あんたたち、その時も一緒にいたんだから――』
 幸枝の声は限りなく低く、暗い。
 自分の口からはどうあっても真実を告げたくなさそうな口振りだ。
「アヤちゃん――実家に住んでるの?」
『ええ、そうみたいよ』
「解った。アヤちゃんに電話してみる。ゴメンね、お母さん。急いでるから、また今度ゆっくり電話するね」
 鬱々とした気分で告げ、ユイは幸枝の返事を待たずに通話を切った。
 転瞬、
 ――クスクス……クスクス……。
 再び、囁くような笑い声がユイの耳をくすぐった。



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2009.07.12 / Top↑
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