ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ――クスクス……クスクス。
 背筋に悪寒が生じる。
 ユイは慌てて室内を見回した。
 昨夜の悪夢が鮮やかに甦る。
 あの少年は――堀田慎だ。
 ユイは確信した。
 どうして、あれが堀田慎の顔であることに気づかなかったのだろうか?
 彼の死に纏わる記憶はポッカリ欠如していても、彼の存在自体は覚えていただろうに……。
 ――ユイちゃん、ボクを思い出して。
 何処からか少年の声が聞こえてくる。
「……シン……ちゃん?」
 ユイは震える手でケータイを握ったまま、怯える眼差しを四方八方に巡らせた。
 だが、求める少年の姿は何処にもない。
「シンちゃん? あなた、シンちゃんなんでしょう!?」

 ――ボク、ユイちゃんのこと大好きだったんだよ。

「どうして? どうして……シンちゃんがわたしを殺すの!?」

 ――ユイちゃんもボクのことが好きだったくせに。

 少年の声は、直接脳に送り込まれているかのように大きく響く。
「わたし、シンちゃんに何か悪いことした? シンちゃんが死んだのは……わたしのせいなのっ!?」
 ユイは、見えない相手に向かって闇雲に叫んだ。

 ――ユイちゃん、ボクに嘘ついたんだもん。ボクと約束したのに、約束を破ったんだよ。

「約束って、何なのよ!? わたし、そんなの知らないわっ!」

 ――約束はちゃんと守らなきゃ。約束を果たしてもらうために、ボクはユイちゃんのことを迎えに来たんだよ。

「やめてっ! やめてよっ! 迎えになんて来ないでっっ!!」
 ユイは髪を掻き毟るようにして両手で耳を塞いだ。
 ――ビドイよ、ユイちゃん。
 しかし、声はしっかりと脳内に反響している。
 ――ユイちゃんがボクに何をしたか、アヤちゃんに訊いてみなよ?
 クスクスとからかうような笑い声。
 声は長く尾を引きながら遠ざかり、やがて消えた。
 それと連鎖するように、ユイを襲った恐怖と戦慄も退いてゆく。
 ユイは、しばし放心状態のままその場に凝固していた。
 心が、虚ろになる。
 虫食いだらけの記憶しか持たない現状では、何が何だかさっぱり理解できない。
「……シンちゃん、どうして?」
 唇から頼りない呟きが零れ落ちる。
 色白で繊細な少年の姿が、チラチラと脳裏に浮かんでは消える。
 田舎のがさつな男の子たちの中で、堀田慎だけが異質だった。
 みんなに比べて遙かに静かで、いつも穏やかに微笑んでいるような大人びた少年。
 ちょっとからかうとすぐに泣き出しそうな表情になり、その次にいつも困ったような微笑みを湛えていた。
 そんな少年の仕種が、時折ユイを苛立たせることがあったのは確かだ。
 何度がきつく当たった覚えもある。
 だが、それは子供特有の『好きな子ほど苛めたい』という衝動だったのだ。
 事実、ユイは慎のことが好きだった。
 華奢で、女の子のように愛らしい少年に淡い恋心を抱いていた。
 その気持ちを周囲に悟られないために、もしかしたら無意識に慎に酷い態度で接していたのかもしれない。
『ユイちゃん、ユイちゃん』と、いつも自分の後ろを嬉しそうについて回っていた少年。
『慎も自分のことが好きなのだ』と、子供心にも察することが出来た。
 どんなことがあっても、慎だけは絶対に自分についてくる、と勝手に思い込んでいた……。
 その傲慢な思い上がりが、後にどんな悲劇を招いたというのだろう?
 ユイの自意識過剰な想いが、慎に対してどう作用したというのだろうか?
 ……思い出せない。
「アヤちゃん――」
 ユイは、掴んだままのケータイに視線を落とした。
 次いで、壁時計に視線を馳せ、僅か一瞬愕然とした。
 時刻は、疾うに午後十一時を回っていた。
 いつの間にこんなに時が経過したのだろう?
 思考の迷路に填り込んでしまったせいで、随分と時間をロスしてしまったらしい。
 ユイは一度唇を噛み締めると、愛用しているバッグを取りに寝室へ向かった。
 バッグの中からシステム手帳を取り出し、アドレスページを捲る。
 高岡綾の実家の住所や電話番号も一応控えていたはずだ。
 それは『タ』欄の最上段にしっかりと記載されていた。
 ユイは躊躇わずに高岡家のナンバーをケータイに打ち込んだ。
「アヤちゃん、お願いだから出てね――」
 ユイは縋るように気持ちでケータイを耳に押し当てた――



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2009.07.12 / Top↑
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