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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.07.12[20:32]
『――あっ、ユイちゃん? 久し振りだねぇ』
 受話口から澄んだ高い声が聞こえてくる。
 昔から殆ど変わらない高岡綾の声だ。
『実家に電話くれたって聞いたから……。ゴメンね、遅くなって。今まで残業だったの』
 綾は、仕事の疲れなど微塵も感じさせないような明るい口調で告げた。
 ユイは十一時過ぎに綾の実家に電話を入れたのだ。その時、綾はまだ帰宅しておらず、それから三十分後の今、彼女の方から電話がかかってきたのである。
 綾は地元の農協に就職したはずだ。この時期、農業関連組織は繁忙期――部署によっては残業で遅くなっても不思議はない。
「ううん、こっちこそ急にゴメンね、アヤちゃん。ちょっと急ぎで確認したいことがあって――」
 ユイはか細い声で応じた。
 視線は落ち着きなく室内を浮遊している。
 いつ堀田慎の不気味な声が響いてくるのかと思うと、どうしても臆病になってしまう。
 ユイは床に体育座りし、背中を丸めた。
 藁にも縋る思いでギュッとケータイを握り締める。
『……ユイちゃん、なんか切羽詰まってるね。何か――あったの?』
「ア、 アヤちゃん……笑わないで聞いてね。真剣な話よ。昨日からウチに――シンちゃんがいるの。シンちゃんが、わたしを殺そうとしてるのよっ!」
『――――』
 一瞬の静寂――
『嘘っっっっ!?』
 次いで、驚愕の叫びがユイの耳をつんざいた。
『嘘……嘘よ……。だって、あたしのトコには来てないわよっ!?』
 アヤは、ユイの話を笑い飛ばしはしなかった。代わりに、意味深な言葉を吐き出し続けている。
「あたしのトコって……アヤちゃん、シンちゃんに恨まれるようなこと、身に覚えがあるのっ!?」
 ユイは脇から冷や汗が滲むのを感じながら、鋭く訊ねた。
『だって、もう十年も前の話よ……! もう、いいじゃない。折角、忘れかけてたのに……どうして今頃――? ああ、そうか! 先月《首吊り神社》が取り壊されたからね、きっと』
 綾の言葉は要領を得ない。
 ユイの話を全く聞いていない様子で、一人取り乱している。
 首吊り神社。
 母の幸枝も神社について何か述べていたが……。
「アヤちゃん……アヤちゃん! わたしたち、十年前にシンちゃんに何をしたの!?」
『あっ……ユイちゃんは、あの時のことすっかり忘れちゃったんだよね。罪の意識――か。いいなぁ、あたしも全部忘れちゃいたかったなぁ……』
 綾の声は、ユイを哀れむようにも羨むようにも聞こえた。
「アヤちゃん、わたし、その忘れてしまったことを思い出したいのよ! 教えてよ。あの夏、わたしたちとシンちゃんの間に何が起こったのか」
 ユイはひどく憔悴した声音で綾に懇願する。
『……あたしたち――あたしとコウちゃんとユイちゃん、十年前の夏にシンちゃんを殺したのよ』



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