FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Mon
2009.07.13[00:07]
「――――!?」
 綾の衝撃的な告白に、ユイは大きく息を呑んだ。
 綾の声は淡々としていて、奇妙なおぞけをユイに感じさせた。
 コ・ロ・シ・タ。
 ――わたしがシンちゃんを殺した……?
 なんて現実味のない言葉だろうか?
 実感に乏しい。
 それなのにユイの心の奥底に眠る記憶の扉は、綾の言葉に呼応するようにドンッと震えた。
『小学校五年の夏の出来事よ』
 ユイが言葉を失ったまま瞠目していると、綾は静かに語り始めた。
『夏休みが始まっていぐの頃かな? あたしたち、学校のアスレチックで遊んでいて――』
「アスレチック? ああ、学校の裏庭にあったよね。確かそこから《首吊り神社》のある山が見えたわよね」
 ユイは記憶の断片から小学時代のものを寄せ集め、アヤに確認した。
『うん。あの日――いつものように四人で遊んでたの。シンちゃんは相変わらずユイちゃんにベッタリでね……。ユイちゃん、その頃はシンちゃんのことを鬱陶しく思っていたのかな? ユイちゃんの後ばっかりついて歩くシンちゃんに、とうとうキレちゃったのよねぇ』
「わたしが……キレた?」
『そう。いきなりシンちゃんのことを突き飛ばして、《そんなにユイのことが好きなの!?》って、物凄い剣幕で怒鳴ったのよ。シンちゃんは怯えたようにユイちゃんを見返しながらも、《うん》って笑ったわ。でも、それがユイちゃんを更に逆上させちゃったみたい』
「それ……何となく覚えてる」
 ユイは悄然と呟いた。
 あれは――晴れた夏の午後だった。
 綾の言うとおり、自分に惜しみない好意を注ぎ、子犬のように纏わりつく慎に訳もなく苛立ち、八つ当たりのように彼を突き放したのだ。
 あの時、自分は己の隷属のような慎になら何をしても赦されると勘違いしていた。
 シンちゃんはユイの下僕だから、ユイの言うことなら何でもきく。
 何と傲慢で身勝手な見解だろうか。
 そして、自分はその思い上がりを実証しようと、ある残酷な言葉を容赦なく慎に投げつけたのだ。
『ユイちゃんね、シンちゃんに《そんなにユイのことが好きなら、死んでみせてよ!》って言ったのよ』
「――――!?」
 ユイは明かされた過去に恟然とした。
 控え目な綾の声は続く。
『《首吊り神社》を指差して、《あそこで死んでみせてよ!》って……。あたしとコウちゃんも面白がって囃し立てたのよね……。《ユイちゃんが好きなら証拠を見せてよ》って。ユイちゃん――その後の言葉、思い出せる?』
「……ううん」
 ユイは素直に首を振った。
 まだ、細かな記憶は甦ってはこない。
『ユイちゃんはシンちゃんにこう言ったの。《シンちゃんがあそこで死んだら、ユイも後から死んであげる》って……。そうしたらシンちゃん、笑ったのよ。……笑ったの。《じゃあ、約束だね》って――』
「約……束……? う……そ……」
 ユイの額から冷たい汗が滑り落ちた。

 ――そう、ユイちゃんはボクと約束したんだよ。

 耳元で幼い堀田慎の声がする。
 背後から冷たい両手がユイの肩を抱いたような錯覚に陥った。
 だが、ユイには振り返る勇気なんて微塵もない……。
 慎は、ユイが約束を破った、と言っていた。
 だから、約束を履行しに来たのだ、と。
 それが綾の告白した《死》についての事柄だということは間違いなさそうだった。
 しかし、何故今なのかは?
 何故、十年経った今になって、慎は自分を迎えに来たのだろうか?
『あたしもコウちゃんもユイちゃんも、からかい半分に《死ね、死ね》って笑いながら言い続けてた。だから、あたしたち三人は同罪……。だって、あの時は、まさかホントにシンちゃんが死ぬなんて思わなかったんだもんっ!』
「あっ! 思い……出した――」
 脳内で、幼い頃の自分と綾、そして佐々木浩二が堀田慎を囲んで無邪気に笑っている光景がフラッシュバックする。
 子供とは、何て残酷なまでに純粋なのだろう?
 一言の重みを知らずに、無神経な言霊を羅列する。
《死》という意味さえ知らずに、その言の葉を安売りした。
 あれは、明らかに自分たちの――己の罪だ。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト



 
テーマ * 短編小説 ジャンル * 小説・文学
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2019 言葉のさざなみ, all rights reserved.