ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 少年らしい、細い木の枝のような両足。

 ――ユイちゃん、迎えに来たよ。

「……い……やっ……」
 口ではそう言いながらも、ユイの目は心とは裏腹に足の持ち主を見上げていた。
「――ひっ……!!」
 悲鳴が喉の奥に張りつく。
 生前と変わらぬ姿で、堀田慎が立っていた。
 その輪郭は半透明で、不確か。彼が、この世の生者ではないことを如実に表していた。
 ――ユイちゃん、大好きだよ。
 作り物のような白い微笑む。
 ――ボクのこと、思い出してくれて嬉しいな。
 堀田慎は限りなく優しく微笑んでいる。
「やめてっ! あの時のことは、本当に申し訳なかったと思ってるわ! ごめんなさい。幾らでも謝るわ。だから――殺さないでっ!!」
 ユイは髪を振り乱し、泣き崩れながら懇願した。
 ――あの時のことなんて、ボクは怒ってないよ。ボクはただ、約束を守ってもらいに来ただけ。ユイちゃんのことが大好きだから。ユイちゃんもボクのこと好きでしょ?
 半透明の慎の両手が、テーブルの上に半球の物体を置いた。
 黒と緑の縞模様の皮に彩られた青果――
「いやっ!」
 短い悲鳴と共に、ユイは後退った。
 それは、紛うことなく天敵――虫のような種を孕んだ西瓜だ。
 ――ユイちゃんの大好きなスイカ。
 慎がニッコリ微笑む。
 ――早く食べて、ボクのところへおいでよ。

「いやっ! いやよっっ!!」
 ユイの身体は、己の意思とは無関係にテーブルへと向かってにじり寄りつつあった。
 見えない強い力が、ユイをおぞましき西瓜へと導いている。
「嫌だって、言ってるでしょ!」
 ユイは身体を捩って抵抗を試みた。
 しかし、目に見えぬ力はグイグイと強引にユイを引き摺ってゆく。
「いやっ……! やめてっ! 誰か、助けて! 透っ! 透、助けてっ! 助けてよ、透っっっ!!」
 ユイは、この場いない恋人に必死に助けを求めた。
 こんなことなら今日一日バイトを休んでもらい、ずっと傍にいてもらえばよかった。
 だが、今更そんなことを思ってももう遅い……。
 ユイの身体はあっという間にテーブルの前に座らされた。
 ――ボクが好きなのは、ユイちゃんだけ。ユイちゃんが好きなのも、ボクだけだよ。
 テーブルを挟んだ向かい側で、堀田慎がにこやかな表情を湛えている。
 空洞のような漆黒の双眸が、じっとユイだけを見つめていた。
「いやっ! わたしが好きなのは、透よっっ!!」
 絶叫と同時に、ケータイが着信音を鳴り響かせた。
 綾が心配してかけ直してきてくれたのかもしれない。
 もしかしたら、透が第六感を働かせ、自分の危地を察して電話をくれたのかもしれない!
 ユイは見えぬ力に必死に抗い、ケータイへ手を伸ばした。
 しかし、届きそうな寸前で、堀田慎がユイの手に別なモノを握らせた。
 銀色に輝くスプーンだ。
 一際強く、スプーンを掴む手が西瓜に向かって動かされる。
「やっ……やめてよっ……!」
 号泣しながらユイは慎を見つめた。
 慎は、ただ黙って微笑んでいる。
 ザクッ。
 スプーンが勢いよく西瓜の実を抉った。
「ぐっ……」
 ユイの意に反して口が大きく開かれる。
 その中に、虫の如き種子を含んだ西瓜の実が放り込まれた。
 グシャ……クチャ、クチャ、クチャ……。
 口が勝手に咀嚼を始める。
 背筋が一気に粟立った。
 食べたくもないのに、手は休むことなくスプーンで西瓜を運び、口は絶え間なく種ごと西瓜の果肉を噛み砕いている。
 十年間、視野に入れることさえ忌み嫌った種が、今、自分の体内に詰め込まれている。
 ユイの意識は、耐えきれない恐怖のために徐々に薄らいでいった。
 もう、何も考えられない。
 ……考えたくない。
 何もかもが、どうでもいい。
 これは、十年前に罪を犯した自分への報復なのだ。

 ――ワタシ ハ タネ ニ コロサレル。

 唯一の希望であるケータイの着信音が急速に遠のき、意識が途絶えた――



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2009.07.13 / Top↑
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