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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.05.17[00:56]
 雲一つない青空が広がっている。
 秋の兆しを強く感じさせる澄み渡った空の下、渋い緑色の群れが列を成して進んでいた。
 東京都の西に位置するM市では、毎朝毎夕お目にかかれる光景である。
 緑色の群れは、独特の制服に身を包んだ十代の少年少女たち。
 彼らの目指す場所は、市街地の中心部にある私立聖華学園。
 来年創立六十周年を迎える伝統ある名門校である。
 貴籐水柯(きとう みずえ)は、肩の両側に垂らしたお下げを揺らしながら、生徒の群れの中を軽快な足取りで進んでいた。
 今朝は心も歩調も軽い。
 昨日発売の少女マンガ誌で、大好きな作品が最終回を迎えた。
 その衝撃的な結末と読後にジワジワと押し寄せてきた感動に、水柯の胸は未だ昂ぶっているのだ。
 マンガをこよなく愛する水柯にとって、素晴らしい作品に出逢えることは至上の幸せなのである。
 そんなわけで、今日は目醒めた時から頗る機嫌がよかった。
 聖華学園を目指す生徒たちの眠そうな顔を尻目に、水柯は元気よく闊歩していた。
 晴れた空と晴れた気分――あまりの心地よさに、思わず鼻唄が飛び出す。
 曲名も歌詞も解らないが、気分が昂揚すると幼い頃から自然と口をついて出る唄だ。
 多分、母親あたりが『胎教のため』とか言いながら、水柯が胎児の頃から聴かせていた曲なのだろう。
 だから高校二年生になった今でも、深く心に根づいているのかもしれない。
 ハミングを続けながら、聖華学園の巨大な正門を潜り抜ける。
 校舎正面にある生徒玄関が見えたところで、ふと水柯は足を止めた。
 玄関付近に、人の流れが滞っている場所を発見したのだ。
 一部の生徒が立ち止まり、みな同じ方向を見つめながら何やら騒ついている。
「たっ、田端先輩!」
 不意に甲高い少女の声が校庭に響いた。
 その一言に、水柯の心臓はドクリと脈打った。
 鼻唄を止めて、人だかりへ視線を馳せる。
 無意識にヒクヒクと口元が引きつった。
 この学園で田端という姓を持つ人間は、水柯の知る限り幼なじみの田端樹里一人しかいない。
 必然的に、樹里が登校時の校庭で何事かをしでかしているという結論に至る。
「ったく、朝から何やってんだか」
 水柯はフレームレス眼鏡の位置を片手で直すと、人だかり目がけてダッシュした。



 
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