ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 校庭を彩る木々が風に吹かれ、梢を揺らしている。
 紅く色付いた葉が、自由奔放に宙を舞っていた。
 美人は、そんな窓外の光景をボンヤリと眺めていた。
 今は、一時間目の授業が行われている最中だ。
 だが、とても授業に集中する気にはなれない。頭痛が続いているのだ。
 薔薇子の幻影を視てから、ずっと鈍痛が治まらない。
 小さな溜息を落とすと、美人は窓から顔を背けた。そのまま、自分の左手に視線を落とす。
 中指で輝きを放つ銀細工の指輪に、自然と目が吸い寄せられた。
 母方の祖母から譲り受けた大切な指輪だ。お守りとして、常に指に填めている。ヘマタイトが埋められた指輪に触れていると、不思議と心が安らぐのだ。
 いつもの癖で、美人は右手をそっと指輪へ重ねた。
 静かに目を閉じた瞬間、前頭葉の辺りに鋭い痛みが走った。
 ――頭が痛い……。
 何だろう、この不快感は?
 空気が重い。
 身の周りの空気が妙に重たく感じられるのは、気のせいだろうか?
 気のせいなら、それでいい。だが、そうじゃなかった場合は――?
 何かが、誰かが、故意にそうしている可能性はないだろうか?
 ――まさか黒井先生……?
 直ぐ様、妖艶な数学教師の姿が脳裏を掠めた。
 薔薇子にも、自分と同じように不思議な能力があるのだろうか?
 朝の出来事のせいか、薔薇子に対する不審感が溢れ出てくる。
 授業そっちのけで色々と思いを巡らせていると、突然ドンッと机を叩かれた。
 驚いて顔を上げると、怒ったような表情で零治が自分を見つめていた。
「チャイムはとっくに鳴ってるぞ」
 観察するような眼差しが容赦なく注がれる。
「えっ? 全然気づかなかった……」
 美人はしばし茫然とした。授業終了の鐘の音など、全く耳に入ってはこなかったのだ。
 零治が呆れたような溜息を落とす。
 それから彼は、真摯な眼差しで美人の顔を覗き込んできた。
「家に帰るか?」
「えっ、どうして?」
「顔が真っ青なんだよ、おまえ……。授業中もずっとそうだったぞ」
 咎めるような口調で零治が指摘する。
「我慢するなよ」
「……ごめん」
「オレに謝ってもしょうがないだろ。タクシー呼んでやるから、帰って寝ろ」
 謝る美人を見て、零治が溜息をつく。
「うん。ありがとう……。でも、一度保健室に寄ってからにするよ」
 零治の申し出を有難く思いながらも、美人はそれを鄭重に断った。頭痛だけなら、薬を飲めば案外簡単に治るかもしれない。
「……おまえが、そうしたいなら少し保健室で休めよ。けど、ホントにムリはすんなよ」
 零治が渋々といった感じで頷く。
 美人は零治を安心させるように微笑んでみせた。零治の好意が純粋に嬉しい。彼は、自分のことを心底心配してくれているのだ。
「大丈夫だよ。じゃあ、保健室に行ってくる」
 美人は教科書類を机の中に手早く仕舞い、椅子から立ち上がる。
 すかさず、零治の手が肩に伸びてきた。
「仕方ないから付き添ってやる」
 無愛想に零治が告げる。
「心配性だね、零治は」
 美人が苦笑すると、零治は一瞬だけムッとした表情を見せた。
 だが、病人相手にムキになっても仕方がない、と考え直したのか、嫌味は返ってこなかった。



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2009.07.14 / Top↑
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