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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.14[21:50]
「曽父江くーん!」
 元気な声が零治を呼んだのは、二人が教室から廊下へと身を移した直後のことだった。
 声を聴いただけで誰だか判別できる――五条真志保だ。
 彼女は、廊下に溢れている生徒を器用に避けながらこちらへ駆けてきた。
「相変わらず仲がいいのね。女の子にもそれくらい優しかったらいいのに」
 からかいを含んだ声音で告げ、真志保が零治の肩をポンと叩く。
「うるせーよっ」
 零治が面倒臭そうに応じる。
「うるさいのは地だからしょうがないの。それより大変よ。真弓が――死んだわ」
 ふと、真志保が真剣な面持ちで零治を見上げる。
 零治は訝しげに彼女を見返した。《真弓》という名前は、零治の頭の中にインプットされていない。
「真弓って……誰?」
 零治が率直に訊ねると、真志保は肩を竦めた。
「覚えてないだろうとは思っていたけれど……。D組の木下真弓よ。ホラ、左目の下にホクロのある綺麗な子」
「……ああ。三日くらい前に告白されたかも」
 曖昧な口調で呟き、零治は眉根を寄せた。木下真弓という人物を明瞭には思い出せないのだ。
「その子がね、昨日――死んだのよ」
「それで?」
「女子の間ではもう噂になってるわよ。『曽父江くんにフラれたから自殺したんだ』って」
 真志保の声音が、心なしか零治を責めるようなものへと変化する。
 零治の眉間の皺は、より一層深いものとなった。
 美人は、真志保の言い種に不快感を覚えた。そんな決めつけるような言い方をすれば、楽天家の零治といえども傷つくのは必至だ。
「噂するにしても酷すぎるよ、五条さん。あまりにも身勝手――」
 思わず、零治を弁護する言葉が口をついて出る。
 だが、途中で零治の手に唇を塞がれた。上目遣いに零治の顔を窺う。彼は、冷たい眼差しで真志保を見据えていた。
「だから、何? オレにどうしろって?」
「わ、私は別に……」
「話がそれだけなら、そこ退けよ」
 零治の言葉は、至極冷淡なものだった。
 冷ややかな眼差しを受けてたじろいだのか、真志保は自然と零治の前から横に移動していた。
「――曽父江くん、怒ったの……?」
「別に……」
「ゴメンなさい。嘘よ。……自殺じゃないわ。あまり大きな声じゃ言えないけれど、殺されたみたい」
 真志保が慌てたように弁明する。
 しかし、それは零治にとって慰めにも何もならない。『木下真弓が死んだ』という事実は変わりはしないのだ。
「それじゃ、もっと悪いじゃないか」
 疲れたように溜息をつくと、零治は美人の腕を引くようにして廊下を歩き始めた。その顔には、無表情の仮面が貼りついている。
「……零治?」
 気遣わしげに美人が声をかけると、零治は無言で首を向けた。
「零治のせいじゃないよ」
 零治が傷ついているのが解る。
 気の強い零治は決して表には出さないが、それでも美人には解ってしまう。零治は真志保の言葉に傷ついている……。
 少しでも自分と関わった者が他界するのは、気持ちの良いものではない。それに、真志保の言い方だ。あれでは、零治が怒って当然だ。
 零治はしばし美人の顔を見つめた後、フッと皮肉げな微笑みを浮かべた。
「病人が余計な心配してんじゃねーよ」
 不遜な口調で述べてから、美人の頭をクシャクシャと撫でる。
 いつもの零治らしい態度に、美人は胸中でホッと安堵の息を吐いた。

 
      *


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Category * 鏡月魔境
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