ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 零治と別れ、保健室に足を踏み入れた瞬間、美人は思わず動きを停止させてしまった。
 保健室の中に、意想外の人物を発見したのだ。
 黒井薔薇子――何故か、彼女の姿が保健室に在った。
「あら、有馬くん。どうしたの?」
 薔薇子が美しい顔に微笑みを浮かべる。
「頭痛が止まらなくて。西野先生は、どうしたんですか?」
 自分の症状を簡潔に訴え、室内に見当たらない保健医のことを訊ねる。
 いつもならこの部屋には、西野智弘(にしの ともひろ)という優しい面立ちの青年が常在しているはずなのだ。
「西野先生は私用で午後出勤よ。それまで、私が留守を預かってるの。そういう訳だから、よろしくね。――とりあえず、横になりましょうか。熱も計らないとね」
 今朝のことなど何事もなかったかのように、薔薇子は笑う。
 ――やはり、あれは幻影だったのだろうか?
 体温計を取り出している薔薇子を横目で見つめながら、美人は空いているベッドに潜り込んだ。
 ――頭が痛い……。
 気のせいか、保健室に入った時から頭痛が重くなっている。
「あら、本当に痛そうね」
 美人が顔をしかめていると、薔薇子が颯爽とした足取りでベッドに接近してきた。
「ああ、そうだわ。二年D組の木下真弓さん――死んだわよ。殺されたの」
 唐突に、薔薇子はそう切り出した。
「普通の殺され方じゃなかったのよ。身体がバラバラに引き裂かれていたんですって。……とても、人間業とは思えないわね」
 ベッドの端に腰かけ、薔薇子が美人の顔を覗き込んでくる。
 唇が妖冶に弧を描いた。
「有馬くん――あなたのせいよ」
 断言されて、美人は目を瞠った。
 驚愕と不審の相俟った眼差しで、薔薇子を凝視する。
「どうしてです? 意味が解りません」
「あら、今朝、言わなかったかしら? ちゃんと忠告したはずよ。《鏡月魔境》の扉が開く、って」
 薔薇子は意味深に微笑んだ。
 ――あれは、幻なんかじゃなかったんだ。
 薔薇子の言葉で、美人は今朝の出来事が現実だったことを確信する。
 やはり薔薇子は、自分だけを標的にあの不思議な空間を見せつけたのだろう。しかし、それが何のためなのか、美人は把握できずにいる。
 一体、黒井薔薇子とは何者で、自分に何を言いたいのだろうか?
「《きょうげつまきょう》? 何ですか、それは?」
 そんな単語は、薔薇子の口からしか聞いたことはない。
「……『鏡』の『月』に、魔物の『魔』に、『きょう』は『国境』の『境』よ。『鏡月』は『幻』という意味。でも、『この世のものではない』って考えてくれた方が解りやすいと思うわ」
「つまり、現実ではない世界で、しかも魔物達の住処、という訳ですか? でも、それがどうしたんです?」
 美人は渋い顔を崩さずに薔薇子に尋ねる。
 鏡月魔境とやらが自分とどう関わってくるのか、まだ理解できないからだ。
「だから、その世界と現実の世界を繋ぐ《扉》が開くのよ。あなたが知らないはずないでしょう、有馬くん。あなたは初代理事長――この聖華学園の創立者・榊総子(さかき そうこ)の孫なんだから」
 薔薇子は、少しだけイライラしたような口調で言葉を投げかける。
 瞳が『本当に知らないの?』と訊ねていた。



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2009.07.14 / Top↑
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