ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 薔薇子にとっても予想外だったのだろう。
 驚くほど素早く、額から彼女の指が消え失せた。
「おや、まあ――人の留守中に妙な真似はしないで下さいね、薔薇子さん」
 ドアを開けて入ってきたのは、この部屋の主人――保健医・西野智弘だ。
 スラリとした長身に白衣を纏っている。肩甲骨まである栗色の髪を後ろで一つに束ね、フレームのない眼鏡をかけている。
 優しそうな雰囲気の青年だ。
 西野は、薔薇子に向かってニッコリ微笑んでいる。しかしながら言葉の内容は彼女を責めるものだった。
 西野の姿を確認して、薔薇子はヒョイと肩を竦める。
「午後出勤じゃなかったの?」
「予定より早く用事が済みましたのでね。……留守番どうもありがとうございました。後は私が引き受けるので、職員室でゆっくりくつろいで下さい」
 西野に言われて、薔薇子は美人から離れる。
「あまり邪魔しないでよね」
 ポンと西野の肩を軽く叩いて、薔薇子は何事もなかったように保健室を出て行ってしまう。
 薔薇子と入れ違うようにして、西野がベッドの傍までやってきた。
「大丈夫ですか、美人くん?」
 上半身だけ起き上がっている美人の両肩に手を添え、西野はそっと美人をベッドへ横たえた。
 優しい瞳が美人を覗き込んでいる。
「西野先生……僕……」
 美人は不安げに西野を見上げる。
 さっきまでの薔薇子との会話を、西野に全て聞かれていたような気がしてならない。
 それが、気に入らない、というのではない。西野なら自分を助けてくれるのではないか、と思ったからだ。彼なら、混乱している頭を正常に戻してくれそうな気がした。
 薔薇子が教えてくれなかった事柄も、西野は知っているのだろう。先程の西野と薔薇子の会話から、彼が薔薇子の正体を知っていることが窺えた。
 それで、思わず西野に懇願の眼差しを向けてしまったのだ。
 西野は不可思議な人物だ。
 ヘマタイトの指輪も、実は彼がくれたものだった。
 いつもさり気なく自分を助けてくれる。
「僕は、どうすればいいんですか……?」
 美人の問いかけに、西野は一瞬だけ哀しそうな表情を見せた。
 だが、それをすぐに引っ込めて、柔らかく微笑む。
「美人くん、少し眠りましょう。その後なら、どんな質問にでも答えてあげますよ。今は疲れているでしょう。……身体を休めないと、悪化してしまいますよ」
 西野は毛布を美人の肩まで引っ張り上げながら、穏やかな口調で述べる。
 美人は従順に頷いた。
 確かに自分は疲れている。
 だだでさえ頭痛で悩んでいたのに、薔薇子に奇妙な話をされた上に不可思議な能力を行使されたのだ。おかげで、余計に痛みが酷くなっている。
 今は、西野の言葉に従って眠りに就こう。
 西野は信じられる。
 目が覚めたら、彼はきっと自分の不安を取り除いてくれるだろう……。
 美人は静かに瞳を閉ざした。
 余ほど疲れているのか、すぐに睡魔は襲ってきてくれた。
 頭が重くなる。
「薔薇子さんにも困ったものですねえ。……何を焦っているんでしょうか」
 闇が降りてくる寸前に、西野の溜め息混じりの呟きを聞いたような気がした。


     *


 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.07.14 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。