ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
    *


 淡く暖かい光が降り注いでいる。
 有馬美人は瞼に光を感じて覚醒した。
 ゆっくりと目を開ける。
 午後の光が、窓から射し込んでいた。
「……う……ん……」
 美人は、開いたばかりの瞳を眩しさに閉ざしながら寝返りを打った。
 微かな薬品の匂いが鼻を掠める。
 その独特の香りで、美人はここが保健室であるということを思い出した。
「いけない。今、何時――」
 慌てて上体を引き起こす。
 途端、頭部に激痛が走った。
「つっ……!」
 反射的に額を手で押さえる。
 ほぼ同時に、忙しない足音が響いた。
「急に起き上がってはいけませんよ」
 西野が慌てた様子で駆け寄ってきて、美人をそっとベッドに横たえる。
「……すみません」
 美人は青白い顔で西野を見上げた。
 西野の端整な顔がすぐ間近にある。
 フレームのない眼鏡の奥に、思いがけず清廉な双眸を発見した。じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな神秘的な瞳だ。
「西野先生って、近くで見ると綺麗ですね」
 思わず、率直な感想を洩らしてしまう。
 西野はしばし唖然とした表情を浮かべていたが、やがて声を立てて笑い出した。
「いきなり何を言うかと思ったら……嫌ですねえ。――まっ、《美形》であることは認めますけどね」
 西野は悠然と微笑みながら美人の顔を覗き込む。
「でも、『近くで見たら』は余計じゃありませんか」
「いえ、深い意味はなかったんですけれど……。先生、本当は裸眼でも日常生活に差し支えないんじゃないですか? どうして、眼鏡をかけているんです?」
「眼鏡を取っちゃうとね、《視なくていいもの》まで視えてしまうからですよ」
 西野は少しだけ自嘲気味に笑った。
 眼鏡はカモフラージュ。一種のファイアウォールだ。
 通常の生活では関わりのない《奇妙な出来事》を避けて通るための道具。
 そうすることで、自分は《一般人》と同化して暮らすことを可能にしてきたのだ。
「先生も超能力を?」
 美人は特別驚きもせずに訊ねる。
 ある程度、予期していたことだ。西野からヘマタイトの指輪を譲り受けた時から、彼も常人とは異なる人物なのではないか、と幾度か考えたことがあった。
 ただの《保健室の先生》にしては、謎が多すぎるのだ。
 時々、気配を感じさせなかったり、神出鬼没だったり、人の言葉をよく先回りしたりする。
 それを指摘する度に西野は笑顔ではぐらかしていたが、今回はそうもいかないだろう。薔薇子の能力を見ても驚かなかったのだ。彼も《魔境伝説》を知っている。何より、眠りに就く前に彼は言ったはずだ。『どんな質問にでも答えてあげますよ』と。
「超能力――簡単に言ってしまえば、そうかもしれないですね。まあ、世間一般でいう《普通の人》と違うことだけは確かですよ。僕も薔薇子さんも似たり寄ったりの人種でしょうね」
 西野は淡々と述べる。
「先生も黒井先生と同じで《魔境伝説》を信じているんですか?」
 美人は思い切って核心に触れてみた。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.07.15 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。