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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.07.15[08:49]
「美人くんには身内話しでショックだったかもしれませんが、薔薇子さんが言ったことは――全て真実です」
「そうですか……」
 美人は溜息を洩らす。
 薔薇子の言ったことが事実ならば、西野も『零治とは離れた方がいい』と言うのだろうか?
 それが、とても気懸かりだ。
 西野は美人が抱く不安を察したのか、柔らかく笑った。
「私は、薔薇子さんと違って『零治くんと離れろ』とは言いませんよ。……むしろ、美人くんは零治くんの傍に居る方がいいと思っていますからね」
「どうしてですか?」
「それはちょっと、今はまだ確信が持てないので、即答は避けたいのですが……」
 西野は気遣わしげに美人に視線を注ぐ。
 美人は黙って頷いた。西野が喋りたくないのなら、それでも構わない。いつか、確信が持てた時に必ず説明してくれるだろう。
 美人が頷くのを見て、西野は再び微笑んだ。
「美人くんは、本当に総子さんによく似ていますね」
 急に、懐かしむような口調で西野は呟く。
「――お祖母様にですか?」
 西野の言葉を不思議に思い、美人は小首を傾げた。
 祖母・総子と自分が似ているだなんて、初めて耳にする。家族の中でも、そんなことを口にする者はいなかった。――いや、敢えて口外しなかったのかもしれない。いつの日か必ず訪れるであろう《鏡月魔境》の報復を忘れようとして……。
「ええ。そっくりですよ。総子さんの若かりし頃に――と言っても、私も写真で見ただけですけどね」
「そうですか。何故、お祖母様のことを?」
「私が幼い頃、近所に榊総子さんというおばあさんが住んでいただけですよ。彼女は不思議な能力を持っていましてね。同じような力を持つ私を可愛がってくれたんです。私が美人くんにあげた指輪――あれは総子さんからいただいたものなんですよ。きっと総子さんは、いつか美人くんと私が出逢うことを知っていて、私にそれを託したんでしょうね」
 西野はどこか遠くを見つめながら語る。おそらく彼の脳裏には、十七年以上も前に総子と共有した時間が、はっきりと浮かび上がっているのだろう。
 美人は自分の左手に視線を落とした。
 ヘマタイトの指輪は、仕組まれたように美人の中指にピッタリ合っている。総子は、それを遙か昔に予想していたのだという。
 一体、何のために?
 この指輪に、どんな意味があるのだろうか?
 総子は自分に何を託したかったのだろうか?
 次々と疑問が浮かんでくる。
 だが、それらを口に出している暇はなかった。我に返った西野が、先を続けたのだ。
「気をつけなさい、美人くん。あなたは、その容姿ゆえに総子さんに間違われるでしょう。人間としての《榊総子》ではありませんよ。勿論《境王妃総子》としてです」
「…………」
 美人は西野の言葉を無言で受け止めた。
 この世と《鏡月魔境》を隔てていた結界が崩れ、扉が開く。
 当然、そこからはここぞとばかりに魔物が這い出てくるのだろう。
 そして、彼らが真っ先に八つ裂きにしようとするのは――彼らの女王でありながら、彼らを裏切り、世界を閉ざしてしまった境王妃。
 だが、実際の総子は既に他界している。そのことを魔物たちが知らなければ、総子に似ている美人が狙われる。西野はそう言いたいのだろう。
「私も可能な限り美人くんを護ります。封印が完全に解けるまでは、僅かですが時間があります。その間に対策を練りましょう。……既に何体か魔境の住人が結界をかいくぐってこちらの世界へ来ているようです。くれぐれも注意して下さい。――D組の真弓さん、どうやら魔物の仕業のようです」
 西野は表情を曇らせる。彼が遅れて学校にやってきたのは『木下真弓殺人事件』を個人的に調べてきたからである。
 そこで得たものは――魔物の影。
 真弓の身体は、薔薇子が言ったように五体バラバラだった。手・足・首は骨まで綺麗にスッパリと断絶されており、胴体は魔物に喰い荒らされたのか内臓が殆どない状態であった。
 常人ではない西野だからこそ解った。そこに、魔族の匂いが漂っている事実に。周辺に不快な障気が漂っていた。
「木下さんが……」
 美人は西野の言葉を聞いて愕然とした。
 木下真弓は、《鏡月魔境》から抜け出してきた魔物に殺された……。
 薔薇子の『あなたのせいよ』という言葉が脳内で甦る。彼女は嘘を言った訳ではないのだ。
 魔物は境王妃総子を捜しに来て、手始めに偶然出会した真弓を殺したのだろう。
 自分は総子ではないが、身内ということで自分さえも悪いような気分に陥った。
 あなたのせいよ――確信を持って断言されると、そんなふうに思えてくる。
「美人くんが気に病むことはありませんよ。あなたは総子さんとは別人です。美人くんは美人くんで、絶対に総子さんには成り得ないのですから。ただ、本当に気をつけて下さいね。魔族の一番の好物は、人間です。気を抜くと――喰べられちゃいますよ」
 西野は美人の肩を抱きながら耳元で囁く。その表情は真剣そのものだ。
 美人が首を縦に振るのを見届けてから、西野はニッコリ微笑む。
「じゃあ、この話はここまでにしておきましょうか。あまり長く話しても、美人くんの具合が悪くなるだけですからね」
 西野は、いつもと変わらない《保健室の先生》の穏やかな口調でそう述べて、美人の肩から腕を離した。
「あっ、言い忘れていましたけど、お昼休みに零治くんが様子を見に来てくれましたよ」
「――零治が?」
 美人はパッと顔を輝かせた。
 零治が自分の心配をしてくれていることが、何となく快かったのだ。
 美人の明るくなった表情を目にして、西野はクスッと笑う。
「ホントに仲がいいですね、美人くんと零治くんは――っと、噂をすれば何とやら、ですね」
 会話の途中で、急に西野が保健室のドアに視線を移す。
 ほぼ同時に、ドアが勢いよく開かれた。
 豪奢な金髪が視界に飛び込んでくる。
 美人は、改めて西野の勘の良さに感嘆した。



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Category * 鏡月魔境
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