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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.07.16[23:13]
 瑞穂と揃って教室を後にしようとしたところで、思いがけずドアが開いた。
 濃紺の学生服を纏った少年が、颯爽と教室に入ってくる。
 彼は莉緒と瑞穂に気づくなり足を止め、微かに首を傾げた。
「あれ、まだ帰ってなかったの? 瑞穂は先生に呼び出されたんだろうけど――蕪木さんは?」
 少年の理知的な双眸が莉緒に据えられる。
 莉緒は笑みで応じた。
「わたしは瑞穂を待ってたのよ」
「要こそ、何をしてたんだ?」
 瑞穂が憮然と少年を見返す。
「僕も呼び出しを喰らったんだよ。教頭に」
 少年――須玖里要(すぐり かなめ)が苦々しげに微笑む。
 このクラスの委員長を務めているせいか、彼は常に知的な雰囲気を纏っている。
 村の少年たちが陽に焼けて健康的な肌をしている中、要だけが白い。そのせいで、よりいっそう彼は生真面目に見えた。
「で、教頭は何だって?」
「……玲のことだよ」
 瑞穂の問いに、要は奇妙な間を措いてから応えた。
「玲はいつ登校してくるのか、週に一度は登校させろ――そんな類のことを言われた。僕に言われても、どうしようもないんだけどね」
 額にかかる前髪を神経質そうに指で払い、要は吐き捨てる。
 莉緒は自然と真後ろの席を振り返っていた。
 莉緒が転校してきて以来、窓際最後列の机はずっと空席のままだ。
 席の主は、神栖玲(かみす れい)。
 村長・神栖倫太郎の孫。
 東の山裾にある大きな屋敷に住んでいるらしいが、莉緒は一度もその姿を見たことがなかった。

「神栖くん、いつ出てくるのかしら?」
 莉緒が何気なく口にした途端、要の切れ長の双眸がスッと細められた。
 暗鬱な眼差しを莉緒に注いだかと思うと、彼は急に目を逸らし、自分の席へと歩き始めてしまう。
 ――あれ、もしかして無視されちゃったのかな?
 莉緒の声が聞こえていたにもかかわらず、要は故意に応えようとはしなかったのだ。
「要の馬鹿」
 瑞穂が小さく舌打ちを鳴らし、莉緒の制服の袖を引っ張った。
 莉緒の耳に口を寄せ、抑えた声で囁く。
「ごめん。要の前で、玲の話は禁句だ」
「瑞穂は話してたじゃない?」
「あたしたちはこの小さな村で一緒に育ったから、姉弟みたいなものなんだよ」
「他人は口を挟むな――ってわけね」
 莉緒は溜息を洩らした。
 村人たちがいくら優しくても、住み始めて一ヶ月しか経っていない莉緒は未だに余所者――異分子なのだ。
 完全に打ち解けるにはまだ時間が必要らしい。
「要と玲のことは特にね」
 瑞穂の顔に淋しげな微笑が浮かび上がる。
「二人はとても仲が良かったんだよ。けど――五年前に仲がこじれ、中学・高校と殆ど言葉を交わしてない状態だ」
「瑞穂、無駄口叩いてないで帰るよ」
 要が鞄を片手にこちらを振り返る。
 瑞穂はピタリと口を閉ざし、無言で頷いた。
「蕪木さんも、たまには一緒に帰ろう」
 先ほどのことなど何もなかったかのように、要が柔和な笑みを湛える。
 ――要くんと神栖くんは訳有り、か……。
 莉緒はまだ見ぬ神栖玲と要の関係を疑問に思いながら、曖昧な笑顔を返した。


     「二.鬼」へ続く



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