ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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二.鬼



 午後三時。太陽は西に傾きかけている。
 春の陽射しを浴びながら、畦道で農家の人々が休憩をとっていた。のんびりと菓子を食べながら、茶を啜っている。
 その光景を横目で眺めながら、莉緒は舗装された道を瑞穂たちと歩いていた。
 緋月村で舗装されている道路は、村役場前を通るこの道と、それと交差する道の二本しかない。
 十字路は、そのまま村の東西南北を示していた。
 村役場を中心に、東に須要(しゅよう)神社や神栖家、西には郵便局と保健所、南に青蘭学園分校や駐在所、北に診療所と農協――といった具合に配置されている。
 莉緒たちは、村の南北に伸びる舗装路を北へと向かって歩いていた。

 村役場前の十字路まで来て、莉緒はふっと足を止めた。
 東西を貫く道に、見慣れぬものを発見したのだ。
 西から東へと向かって人の列ができていた。
 白装束に身を包んだ人々が、黙々と東を目指して歩いている。
「葬列だよ」
 莉緒の見ているものに気づき、要が簡素に告げる。
「西で、金井の房雄さんが亡くなったって聞いたな」
 瑞穂が目を眇め、白い葬列に視線を馳せる。
 莉緒は近づいてくる葬列をぼんやりと眺めていた。
 緋月村に来て初めて見る葬儀だ。
 葬列の先頭は松明を持った少年。その後ろに花を持った少女、位牌と遺影を持った女たち、棺桶を担いだ男たちと続いている。
 あとは、莉緒が見ても解らぬ小道具を持った者たちが葬列に加わっていた。
 葬列が進むたびに振り鳴らされる鈴の音が物悲しい。
「お葬式なのね……」
 莉緒は眉間に皺を寄せた。
 父の葬儀が脳裏をよぎる。
 同時に胸が締めつけられるような痛みを発した。
 父を喪った哀しみがまざまざと甦ってくる。目頭が熱くなったが、涙が零れ落ちるのは唇を噛み締めて耐えた。
「大丈夫か?」
 瑞穂が心配そうに訊ねてくる。
「うん、平気。――ねえ、あの人たちはどこへ向かってるの? 村にお寺はなかったはずよね」
 莉緒は父の死を頭から締め出し、気になったことを口にした。
 葬列の先頭は、莉緒たちの前に差し掛かっている。
 緋月村に来て間もない莉緒には、彼らがどこを目指しているのか全く見当もつかなかった。
「須要神社さ」
 瑞穂が意味深な視線を要へ注ぐ。
 それを受けて、要は口元に苦笑を閃かせた。
「つまり僕の家だよ」
 そう言われて、莉緒は須玖里家が神社の神主を務めていることを思い出した。
 要は神主の一人息子であり、境内にある家屋に住んでいるのだ。
「この村には寺がないから、葬儀はウチが全て取り仕切ってる。神社だからって、真っ当な神葬祭でもないんだけどね」
「真っ当じゃない?」
 莉緒が訊き返すと、要は苦笑を深めた。
「この村には昔から土葬の仕来りがあるんだ」
「えっ、土葬っ!? それって、法律で禁止されてるんじゃなかった?」
「そうなんだけど、山間部では未だに土葬の習わしが残っているところもあるんだよ」
「へえ、何だか凄い話ね」
 莉緒は素直に驚嘆した。
 噂には聞いたことはあるが、実際に土葬を続けている地域があるとは思ってもみなかった。
「昔から続く土葬の儀式を神主が受け持ってるだけなんだ。だから、お葬式は、仏式でも神式でもない村独特のものってこと」
 葬列を目で追いながら瑞穂が肩を竦める。
「神社の上が埋葬地になってるんだよ」
 要が東を指差す。釣られて莉緒は東を向いた。
 山裾には、神栖屋敷がその巨大さを誇示するように広がっている。
 神栖家の背後には鳥居。
 そこから階段らしき灰色の筋が伸び、山の中腹部でまた鳥居に突き当たる。
 第二の鳥居の奥に社殿らしき建物が見えた――須要神社だ。
 要の言葉から察するに、神殿から山頂までが死者の埋葬地になっているのだろう。
「土葬が現在まで続いているなんて、信じられない」
「この村では、それが現実。莉緒が気にしていた吸血鬼伝説も、土葬という因習が生んだものなんだよ」
 瑞穂が莉緒に向き直り、唇に弧を描かせる。
 要も莉緒に視線を向けてきた。
「蕪木さんは伝説に興味があるの?」
「少しね。要くんは伝説を信じてるの?」
「信じて――ないよ」
 答える要の声は微かに震えていた。彼自身も己の声音に驚いたように、ハッと息を呑む。
 莉緒が怪訝な眼差しを注ぐと、彼は取り繕ったように微笑んだ。
「蕪木さんは信じてるの?」
「頭から信じてるわけじゃないけど、言い伝えが残されているなら、それなりの根拠はあったはずよね。それに近い事実があったとか」
「緋月村の場合は、土葬が原因でいい加減な伝説が発祥しただけだよ。昔は、死亡と判断されてから埋葬までの時間が短かったし、医学も発達してなかったからね。誤って、生き埋めにされた人もいたと思うんだ」
「うわっ、想像したくもないわね」
 莉緒は生き埋めにされた自分を想像してしまい、顔を引きつらせた。
「でも、昔は実際にあったらしいよ。仮死状態のまま埋葬された人が、地中で息を吹き返す。その人は死にたくない一心で必死に棺桶を壊し、土をはね除け、地上に這い出てくるだろうね。けれど、村人たちはその人が死んだと思い込んでるから、動き回ってる姿を見て驚倒する。『屍鬼だ』『起き上がりだ』『不死者だ』と村中大騒ぎになったはずだよ」
「そういう不幸にして生き埋めにされた人たちの話が、形を変え、吸血鬼として今日まで伝わってるだけ――これが吸血鬼伝説の真相」
 瑞穂が話を締め括り、莉緒の反応を愉しむように顔を覗き込んでくる。
 莉緒は肩すかしを喰らったような気分に陥り、苦笑した。
 父が畏れた吸血鬼伝説とやらは、土葬が生んだ悲劇であったらしい。
 死亡したと信じていた人間が墓から這い出てくれば、誰だって驚くだろう。
 昔は、その人が仮死状態にあったとは思いもよらず、幽霊や物の怪の類だと考えてしまったに違いない。
 医学の発達していない時代、山に囲まれた閉鎖的な村では、きっとそれ以外の説明がつかなかったのだ。



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2009.07.18 / Top↑
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