ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 りん――と、鈴が鳴った。

 それを合図に、莉緒たちは葬列に視線を戻した。
 白い葬列は、いつの間にか莉緒たちの眼前を通過し終えようとしている。
 最後尾に並ぶ老婆が、また鈴を鳴らした。
 老婆の前を歩く二人の老人が、鈴の音に触発されたかのようにこちらを振り向いた。
「房雄が死んだ晩、月が紅かったな」
「余所者が村に居座っておるせいじゃ」
 老人たちが莉緒を見、憎々しげに告げる。
 唐突に敵意を向けられ、莉緒は胸に鈍い痛みを覚えた。
 村の中には自分の存在を快く思わない人々もいるのだ、と改めて痛感させられる。
 いたたまれなさと屈辱に、唇が震えた。
 村で生まれ育った人間ではない、というだけの理由で嫌悪されるのは理不尽だ。
「頭の堅い人たちの言うことなんて気にするな、莉緒」
 瑞穂が明瞭な声で莉緒を擁護する。
 老人たちにもその声は届いたはずだが、彼らが視線を逸らすことはなかった。
「余所者のせいで月が狂った」
 老人に賛同するように鈴が鳴り響く。
 莉緒は眉根を寄せ、唇を噛み締めた。
 老人たちの真意は掴めぬが、その声音に織り交ぜられた怒りと侮蔑はひしひしと伝わってきた。
「房雄の代わりに、おまえが死ねばよかったんだ」
 憎悪に溢れた一言を最後に、老人たちは何食わぬ顔で再び葬列の中に溶け込んでゆく。

 死ねばよかったんだ。

 胸中で復誦した途端、頭にカッと血が上った。
 怒りに頬が紅潮する。
 いくらなんでも、そこまで言われる筋合いはない。
 莉緒は葬列へ向かって憤然と足を踏み出した。その瞬間――
「違う。今のは君に言ったんじゃない」
 要が莉緒の手首を強く引いた。
「あれは、僕に向けられた言葉だ」
 血の気を失った顔で葬列を見据え、要は掠れた声で呟く。
 莉緒は老人たちへの怒りも忘れ、唖然と要を見つめた。ますます状況が理解できない。
「馬鹿なこと言うな」
 瑞穂が硬い表情で要を見据える。
「ごめんね、蕪木さん」
 要は急に現実に引き戻されたように、慌てて莉緒の手を離した。
「要も莉緒も、爺様たちの戯言なんか気にすることないよ。みんな、親しい人を亡くしたばかりで気が立ってるだけだ」
 気まずい雰囲気を解すように、瑞穂がやけに明るい声で告げる。
「そうよね。わたしもパパを喪った時は、周りのもの全てが煩わしかったもの。何かに怒りをぶつけなきゃ、哀しみを紛らわせなかった。あの人たちも、きっと同じなのね」
 莉緒は己に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
 老人たちの鋭利な言葉の数々も、かつての自分の姿に重ね合わせてみれば納得できるような気がする。
 莉緒は遠ざかる白い群れを眺めた。
 哀しげな鈴の音を響かせて、葬列は東の山へと行進を続けている。
「あれ、神社で葬儀――って、要くんは参加しなくていいの?」
 ふと、疑問が芽生えた。
 要は須要神社の一人息子なのだ。神葬祭や様々な神事に携わるのが当然だろう。
 だが、莉緒の予想とは裏腹に彼は緩やかにかぶりを振った。
「神社のことは僕には関係ない。跡取りじゃないからね」
「一人息子なのに?」
「一人息子でも、僕が神主になることは――生涯有り得ない」
 要の口元を自嘲めいた笑みが彩る。
「さてと――このまま葬列に続いて帰っても気まずいし、僕は図書室に寄ってくよ」
 後継者問題についてはあまり触れられたくないのか、要は早々に話を切り上げた。
 彼は莉緒と瑞穂に向けて軽く手を振ると、足早にその場を立ち去ってしまったのだ。村役場の隣――公民館の玄関へと吸い込まれるようにして姿を消す。
「わたし、また余計なこと言っちゃった?」
 要が消えた公民館を茫然と眺め、莉緒は瑞穂に問いかけた。
 要の立ち去り方は物凄く不自然だ。理由があるとすれば、莉緒の質問が彼を傷つけたか不快にさせたかのどちらかだろう。
 神栖玲に関することと同様、要に対する禁忌を犯してしまったのかもしれない。
「本人の言った通り、あの葬列と一緒に帰宅するのが嫌なだけだ」
 瑞穂が莉緒を励ますように肩をポンと叩き、軽やかな足取りで歩き始める。
 瑞穂は北へ伸びる道へと足を踏み入れた。彼女の家も村の北に位置しているのだ。
 莉緒は、不吉な老人の言葉や腑に落ちない要の態度を強引に脳裏から締め出すと、瑞穂の後を追った。


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2009.07.18 / Top↑
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