ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 月夜の公園。
 漆黒の闇に青みがかった月が浮かんでいた。
 繁華街から離れた公園は、森閑とした静けさを保っている。
 賑やかな夜の街の喧噪も幹線道路を疾走する車輌の轟音も、ここには届いてはこなかった。
 園内を三人の少女が歩いている。
 それぞれ、渋い緑色の風変わりな制服を身につけていた。
「今日は楽しかったね」
 里美が嬉しそうに微笑む。
「ホーント! 外出禁止だからって、遊ぶチャンスを逃すことはないもんね。せっかく午前中で授業が終わったんだから、思う存分遊ばなきゃ!」
 嬉しそうに賛同する律子。彼女の隣で、真琴も頷きを示した。
 今日、彼女たちの通う高校――聖華学園は午前中で授業が引けた。
 ここ二日ばかり、学園内外を賑わしている『連続殺人事件』のせいだ。
 奇怪な事件が続いたので、学園側は一週間の休校に踏み切ったのである。生徒たちの安全とマスコミを遮断するための対策だ。
 犯人は依然として目星がついていない。
 生徒たちは『自宅待機』を命じられていた。
 殊に夜は出歩いてはいけない、と。
 だが、彼女たちにとってそんなことはどうでも良いことだった。彼女たちには、自分が狙われるかもしれないという危機感がないのだ。
 猟奇事件はあくまで過去二件だけの出来事で、未来には絶対起こり得ない、と無意識かつ勝手に決めつけていた。
 彼女たちは、学園の発令を無視して街へ遊びに出た。
 三人でショッピングをし、カラオケをし、食事をして今に至る。
 大胆不敵にも『名門私立校』と噂に名高い聖華学園の奇抜なデザイン&色使いの目立つ制服を身に纏って――
 街をブラブラしている内に、あっという間に午後十一時を過ぎてしまった。
「でも、ちょっと遊び過ぎかな」
 真琴がクスクス笑う。
 その笑いは他の二人にも広まった。
「そりゃそーよね。カラオケボックスで六時間も歌ってたんだから!」
 ケラケラと笑いを転がしながら、里美がつけ加える。
 思い切り『遊び』を満喫したせいで、三人の談笑は留まることを知らない。
「まだまだ歌えるよ、あたし!」
 律子が陽気に挙手しながら宣言する。
「声ガラガラのくせに何言ってんのよ」
「見栄張ってんじゃないわよ」
 夜の公園に、少女たちの愉悦混じりの声が響き渡る。
 談笑しながら公園を後にしようとしたところで、誰かが近寄ってくるのを察した。
 コツ、コツ、コツ……。
 革靴の足音が闇夜に木霊する。
 コツ、コツ、コツ……。
 自然と三人の足が止まった。
 チラリと視線を絡み合わせると、三人はほぼ同時に後ろを振り返る。
 脳裏で、『猟奇事件』の惨殺シーンが想像を膨らましながらグルグルと回る。
 黒い影が忍び寄っていた。
 三人が見守る中、道路沿いの街頭に照らされ、影の正体が明らかになる。
「君たち、こんな時間に何してるの?」
 濃紺の制服を着用した中年男性が、不審げに訊ねてくる。
 ――警察だ。
 影の正体を見て、三人はホッと胸を撫で下ろした。とりあえず、奇怪な事件とは無関係そうだ。
「高校生だろう? こんな時間に制服でうろついてちゃ駄目だよ」
 警官は、三人を検分するようにジロジロと不躾な眼差しを送ってくる。
「――ん? この制服は聖華学園のものだな」
 警官の視点は真琴の制服に当てられていた。
 ――マズイ!
 三人は忙しく視線を交差させる。
 こんなところで補導されるわけにはいかなかった。
『外出禁止令』が出ているのに制服姿で夜の街を徘徊していたなんて学園側に知られたら、必ず処罰が下るだろう。それだけは避けなければならなかった。
「違います!」
 律子が憤然とした言葉遣いでキッパリ言い切り、その場を去ろうとする。
「待てっ!」
 だが、警官の力強い腕が律子の肩を後ろから引いた。
「何よっ?」
 キッ、と警官を睨めつけながら振り返る。
「聖華学園は、確か今日から一週間、夜間外出禁止じゃなかったかな?」
 警官の腕が、律子の細い腕を捕らえる。
「知らないわよ。離してっ!」
「そうよ。律子を離してよ」
 里美も律子に加勢する。彼女は、律子の腕を掴む警官の手を無理矢理引き剥がそうとするが、上手くいかない。警官の力の方が遥かに強いのだ。
「ちょっと、律子! 里美!」
 真琴は、果敢にも警官に逆らおうとする友人二人に制止の声をかけるが、二人とも全く聞いていないようだ。
「聖華学園の生徒だろ?」
「違うってばっ!」
「その制服は間違いない」
「知らないわ!」
 堂々巡りの押し問答が、真琴の目前で繰り広げられている。
「――痛いっ! 離してよ!」
 律子が腕の痛みに耐え切れずに叫ぶ。
「……離すわけにはいかない」
 不意に、ピタッと警官が動きを止めた。
「離すわけにはいかない」
 壊れたお喋り人形のように、同じ言葉を繰り返す。
「……おまえたちは……聖華学園の生徒……」
 チロリ、と警官の双眼に暗い光が走った。
「聖華学園……呪われた聖地……おまえたちは皆……我々の餌食と…なる……!」
 カッ、と警官の目が赤光を放つ。
 刹那、警官の身体がドロッと溶けた。
 律子を掴む腕が、緑色の半透明のゼリー状に変貌を遂げる。
 ジュワッッ、と皮膚が溶ける音がした。
「キャアァァァァァ!」
 たまらずに律子が悲鳴をあげる。
「……コロス……コロス…コロス、コロス、コロス……!」
 緑色の物体は自らの衣服を溶かし、更に律子の身体を溶かし始めていた。
 ボタッ、と右腕が崩れ落ちる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
 間近で見ていた里美が、手で顔を覆いながら泣き叫んだ。
 律子はショックで気を失ったらしく、力なく緑の物体の上に倒れ込んでしまう。
 ジュワ、ジュワ、ジュワッッッ!
 皮膚や髪、そして骨が溶ける音が、真琴の耳にも届く。
 真琴は、金縛りにあったように微塵も動くことができなかった。
 ただ漠然と、現在遭遇している珍奇な物体が『猟奇事件』の続編だということだけは理解した。
 聖華学園の生徒は、本当に怪物に狙われていたのだ。
 真琴は、外出禁止を守らなかったことをひしひしと後悔した。
 だが、もう遅い。
 怪物は、既に律子の全てを溶かし吸収していた。
 緑のブヨブヨとした物体の中心で、二つの赤い光が不確定に近寄ったり離れたりしている。おそらく、あれが《目》なのだろう。
 ボンヤリとそんなことを思いながら、真琴は立ち尽くしていた。
 緑の怪物が、泣きわめく里美に飛びかかるのを見た。
 怪物は頭からスッポリ里美を覆ってしまう。
 里美の手が、ゼリーを突き抜けて自分に差し出された。
 その手を取って、ゼリーの中から引き抜いてあげるべきなのだろう。
 しかし、真琴にはできなかった。
 恐怖が真琴の全神経を麻痺させていた。
 里美の手がゼリーの中へ引き戻される。
 半透明のゼリーの中で、里美が悲鳴をあげている。
 それも一瞬のことで、里美の身体は瞬く間に溶かされ、吸収されてゆくのだ。
 皮膚が溶け、内臓が弾け、骨が消失した。
 呆気ない。
 人間というのは、こんなにも簡単に生命を失ってしまうものなんだ。
 真琴は、泣くこともできずに友人の《死》を眺めていた。
 怪物の赤い瞳が真琴に向けられる。
 死ぬんだ。
 律子や里美と同じように、死ぬんだ。
 真琴は迫り来る怪物を凝視していた。
 逃げることも、助けを呼ぶことも、実行できなかった。
 緑のゼリーが制服を掠った。
 ジュッ、と繊維が溶ける。
 ――呑み込まれる!
 真琴は、今にも自分に襲いかかろうとしている化け物を正視できずに堅く瞼を閉ざした――



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2009.07.19 / Top↑
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