ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「さすが薔薇子さん」
 美人の隣で、西野が薔薇子に讃称の拍手を送った。
 特別驚かないところから、西野が薔薇子の《力》を知っていた事実が伺える。
「戻っていいわよ、光魔」
 薔薇子がそっと左手を差し出すと、光の翼はそこへスーッと吸い込まれるようにして姿を消した。同時に、両眼の紫の光も薄れる。
 静まり返った深夜の校庭を一度見回してから、薔薇子は地面に突き刺さっている鞭に手をかけ、それを抜き取った。不思議と鞭は掌サイズにまで縮小され、薔薇子のジャケットのポケットに易々と納まる。
「――大丈夫。敵じゃないわよ、私」
 真琴を腕に抱えたまま呆気にとられている美人に向かって、彼女は笑った。
「えっ? あっ……はい」
 美人はしどろもどろに応じる。
 薔薇子が『敵じゃない』と明言したのは初めてだ。
 美人は昨日、妙な力を使われて以来、と薔薇子の存在を怪しんでいたのだ。『もしかしたら敵なのでは?』とさえ思ったものだ。
 今の薔薇子の発言は、そんな美人の心中を見透かしていた。美人が彼女のことを疑っているのを知っていて、わざわざ『味方』だと名乗ってくれたのだろう。
「あの妖魔、木下さんを殺した輩よ。でも……赤城くんは食べていなかったわ。奴から木下さんの残留思念を受けたけど、赤城くんのものはなかったわ」
 薔薇子は、西野に歩み寄りながらあまり喜ばしくない報告を述べる。
「別の妖魔ですか? てっきり同じ奴だと思ってたのに……厄介ですね。街にあんなのがウヨウヨ徘徊されちゃ……」
 西野は考え込むように腕を組む。
 まだ、文彦を襲った妖魔は街に身を潜めているのだ。
 もしかしたら、それは一匹ではないのかもしれない。
 早いところ奴らの所在を突き止めて、抹殺――もしくは封印してしまわなければならない。これ以上、被害を甚大にするわけにはいかないのだ。
 無意識の内に、三人は銘々の物思いに耽っていた。
「――《扉》を封印しましょう」
 真っ先に口を開いたのは薔薇子だった。
「そうですね。何にせよ、それが一番の解決法でしょう。――真琴さんには申し訳ないですけど、記憶を消させて頂きます」
 西野は、美人が腕に抱えている真琴の額に手を当てる。
 白い光がボンヤリと浮かび、すぐに消えていった。
「これで、彼女は今日起こったおぞましい出来事を一切覚えていませんよ。さて――」
 真琴の額から手を離すと、西野は何かを捜すようにキョロキョロと周囲を見回すのだ。
 彼の隣で薔薇子が軽い溜息を落とす。
「ちょっと、こんな所に女の子を放り出す気じゃないでしょうね?」
「とりあえず、そうしておこうかなぁ、と」
 歯切れ悪く西野は答えた。
 時間的余裕がないので、真琴を家まで送って行ってあげることはできない、と判断したのだが……。
 どうやら、それが薔薇子にはお気に召さなかったらしい。
「私が彼女を家までテレポートするわよ」
 大きく肩を竦めて、薔薇子はぐったりとして意識のない真琴の腕を掴んだ。
 真琴の身体の輪郭がブレたかと思うと、次の瞬間には彼女の姿は美人の腕の中から完璧に消え去っていた。
 薔薇子が不思議な能力を行使して、彼女を家へ送り届けたのだろう。
「凄い……空間移動もできるんですね?」
 美人は、率直な感激とともに薔薇子に質問を向けた。
「一応ね。でも、中途半端な能力よ。自分以外のものしかテレポートできないんだから」
 苦笑いで応じる薔薇子。
 確かに空間移動の能力を持っているが、未完成なために自分自身は時空を自由に操ることはできない。他のものなら幾らだって望む場所へ飛ばせてあげることが可能なのだが……。
「黒井先生って、一体何者なんですか?」
「あら、私? う~ん、男が女にそんな野暮なこと訊くもんじゃないわよ。まだ、《秘密》ってことにしておいてよね」
 薔薇子は、真っ赤なルージュを施した唇を軽く吊り上げて微笑した。
 美人と西野は、視線を交差させながら首を傾げた。
 薔薇子が自分の正体を明かしたくない、というのならば仕方がない。いつかきっと自分から語ってくれることだろう。
 それより、今は――
「さあ、問題の《扉》の在り処へ行きましょうか」
 薔薇子が先頭を切って歩き出す。
 美人も彼女に続こうとした。
「――――!」
 だが、視線がある一点に釘付けになって、一瞬『歩く』という動作を見失ってしまった。
「零治っ!」
 美人は慣れた名前を叫んだ。
 目的地――聖華学園の校舎の正面玄関に、金色の発光体を見つけたからだ。
 黄金の光。
 それは美しい金髪と、髪と同じ麗色の神々しい瞳。
 何処からどう見ても、美人の大切な親友――曽父江零治の姿だった。



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2009.07.19 / Top↑
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