ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 田端樹里は眉間に皺を刻んだ渋い表情で、広いリビングをうろうろと徘徊していた。
「まいったな……」
 三十回ほど同じ言葉を繰り返した後、ようやく電話台の前で足を止める。
 頭を占めているのは、幼なじみの眼鏡をかけた顔だけだ。
 貴籐水柯のショックに凍りついた表情が、脳裏から離れない。
「八つ当たりだよな、やっぱり」
 下校時の会話を思い起こしながら、樹里は唸るように呟いた。
 母のことを口に出されたので、ついカッとなって不当な非難を浴びせてしまった。
 そのことが、喉に刺さった魚の小骨のように気になって仕方がない。
 不用意に母のことを口走ったのは、明らかに水柯の過ちだ。
 それに対して子供のように感情を露わにし、叱責してしまった自分に激しい羞恥を覚える。
「水柯が悪い。でも、僕も浅慮だったな」
 自然と唇から溜息が零れた。
 不意に、蛍光灯の光を浴びて眩く輝く白金髪が恨めしく思えてきた。
 樹里は上目遣いに前髪を睨み、舌打ちを鳴らした。
 それから何度かかぶりを振り、気分を切り換えて電話に手を伸ばす。
 水柯との仲を破壊したいわけではない。
 彼女は、幼い頃から自分の傍にいてくれた貴重な人物だ。
 失うのは嫌だった。
 水柯と自分とを繋ぐ橋にひびが入ったのなら、早急にそれを修復するべきなのだ。
 頭では解っているが、実際に行動を起こすことには躊躇いが生じてしまう。
 水柯の方から電話がかかってこないものか、と虫のいいことを考えていたが、帰宅して三時間強――水柯からのコンタクトは何もない。
「絶対、水柯が悪いんだけどな」
 諦め悪く呟きながら、樹里は人気のないリビングを見回した。
 今現在、田端家には樹里の他に誰もいない。
 父も母も仕事重視の人間であり、滅多に帰宅しないからである。
 巨大な家の中で、樹里だけが生活を営んでいるに等しい状態だ。
 物心ついた時からずっとそうだったので、今更寂寥を感じたりはしない。
 ただ、自分が育った家だというのにそこに蔓延る空気が大嫌いだった。
 忌々しささえ覚える。
 樹里は、この場にいない《あの女》のことを考えて嫌悪に顔を歪めた。
 母親――サラ・エドワーズ。
 簡潔に言い表せば『家庭を全く顧みず、自己の利益を追求することに執念を抱いている女性』だ。
「僕を産みたくないと言った、あの女……」
 誰もいないリビングを見据え、樹里はきつく唇を噛み締めた。




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2009.05.27 / Top↑
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