ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 不毛の地。
 異様な浮遊感を伴った長き落下の終着地は、そんな言葉を連想させた。
 瞼を開いた美人の視野に映るのは、荒廃した土地。
 一面、暗色に塗り尽くされ、緑や青、赤、黄色といった明るい色彩は見受けられない。
 地面は枯れてひび割れ、ザラザラとした灰色気味の黒い土が、時折風に吹かれて宙に舞い上がる。
 木々は生えてはいるものの、緑の葉はなく枝だけの奇妙な姿のまま疎らに点在していた。
 空は灰褐色。
 鈍色にくすんだ雲が渦を巻いている。
 昏い空には、月か太陽か判別のできぬ球形の発光体が浮かんでいた。
 これが世界を照らし出しているおかげで、自分にも暗黒の世界が見渡すことができるのだ、と美人は漠然と思った。もしかしたら、この世界で唯一の光源なのかもしれない。
 鏡月魔境――この荒涼とした世界の呼称。
 異形のものたちの住処。
「……零治」
 美人は、無意識に幼なじみの名を口ずさんでいた。
 ここへ落ちてくる最中――遙か昔の記憶が甦ってきた。
 かつて零治が自分と同じように不可思議な《力》を使えた、という幼い頃の記憶。
 あの力は境王のものだったのだろう。
 零治の裡で眠っていたはずの境王の力が、何かの弾みで表に出てきてしまったのだ。
 だから、零治の特殊能力はごく一時的なもので、すぐに消失してしまったに違いない……。
「天も地も貴方の意のままに――か」
「人間界が《天》だとしたら、この世界は正に《地》ですね」
 ふと、美人の耳に教師二人の声が届いた。
 美人は意識を彼らに引かれて、声のした方角へ首を巡らせる。
 薔薇子と西野が、厳しい眼差しで世界を見つめていた。
 二人とも無事に魔境へ辿り着けたようだ。
「何の詩ですか?」
 美人は、二人の教師に歩み寄りながら疑問を口にする。
 先ほど薔薇子の唇から紡がれた《天も地も貴方の意のままに》という言葉が、美人の注意を引いたのだ。
「詩ではないのよ、有馬くん。あなたのお祖母様が境王と交わした約束よ」
 薔薇子は伏せ目がちに応じる。
「約束? 何の意図があって、そんな謎めいた言葉に置き換えられているんですか?」
「さあ……私には解らないわ」
「真意を知る者は、約束を提示した総子さんだけでしょうね」
 横から西野が口を添える。
「そうね……。それより有馬くん、私と桐子さんの関係は訊かなくていいの?」
 薔薇子の気遣わしげな視線が美人に注がれた。
 指摘されて、美人は右手に握っている日本刀にチラリと一瞥を与える。
 青白い霊光に包まれた刀身――祖母・総子が残してくれた唯一の形見。
 魔封じの剣――雷師。
 指輪であったそれを本来の姿に具現させたのが、桐子だ。その桐子は、予想もしなかったことに薔薇子と顔見知りだった。
 気になるのは当然だ。接点が見当たらない。
「それは訊きたいですけれど……先生がその気になった時に教えて下さい」
 美人は敢えて答えを強要することはしなかった。
 今まで幾度となく自分の正体をはぐらかしてきた薔薇子だ。余ほど自分の過去をさらけ出したくないのだろう。もしくは、思い出したくない『何か』があるのだろう。
 それを察してしまったから、無理矢理回答を引き出すようなことはしたくなかった。
「……ありがとう」
 薔薇子は微かに微笑んだ。
 ――ポン……。
 小さく弾む音が美人の耳を掠めたのは、次の瞬間だった。
 ――ポン……ポン…………ポン……。
 ゆっくりとした間隔で音は刻まれる。
「何の音ですか?」
 美人は誰に訊ねるでもなく疑問を口にした。
 怪訝そうに枯れた大地を見回す。
 ――ポン……………ポン……。
「向こうの方じゃないですか?」
 西野がある一方を指差す。
 そこだけ異常に枯れ木が群がっていた。
 ――ポン……。
 確かに、それは西野が示した枯死木群の向こう側から聞こえてきた。
 音の発生源が気に懸かる。
『決して躊躇わず、自分の心に忠実に。進むべき道はあなたの心の中に在るわ』
 母の言葉を反芻する。
 美人は即断した。
「行ってみましょう」




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2009.07.20 / Top↑
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