ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「誰ですっ!?」
 西野が鋭く誰何の声をあげる。
 この部屋に飛び込んだ時、自分たち以外の気配を全く感じなかったのだ。
 驚きとともに振り返った三人の前に、突如として火の玉が出現した。
 青白い火の玉が、部屋を浮遊し始める。
 部屋は縦に長く、遠くに次の間へ抜け出せるであろう扉が見えた。
 外部から見た時には高くそびえ立っていた城だが、内部は意想外に平面にも広がりをみせている。不思議な構造だ。
 三人の眼前で、火の玉はどんどん増殖していく。
 赤い火の玉。青い火の玉。
 揺らめく奇怪な炎は、色ごとに集合を始めていた。何かの形を造っているようだ。
 程なくして《それ》は姿を現した。
 炎で造形された怪物――獅子と犬のキメラのようだ。
 大きく裂けた口からは鋭い牙が覗き、頭から尾にかけては鬣が渦巻いている。
 顔の中央よりやや上の部分に、ガラス細工のような緑色の巨大な目が一つ輝いていた。全体のイメージとしては、狛犬に似ているかもしれない。
 赤と青の怪物。二つの緑色の眼が美人たちに向けられた。
 ガルルルル。
 低い唸り声が部屋に響く。
 二匹同時に躍りかかってきた。
 赤い怪物が美人を狙う。
「うわっっ!」
 怪物の鋭い爪を雷師で受け流し、逆に素早く切り返した。
 怪物の巨躯が二分される。だが、手応えはなかった。
「何よ、これっ!」
 近くで、薔薇子の苛立ち混じりの叫びが聞こえた。
 彼女は青の獣を鞭で切り刻んでいたのだが、美人と同様に確たる手応えを感じなかったのだ。
 三人の視界の中で、破壊されたはずの怪物たちの身体が見る見る内に再生されてゆく。
「どういうことよっ?」
 自問するように薔薇子が声を張り上げる。
「本体じゃないんですよ。多分、さっき喋った奴が本体です。何処かで二匹を操っているんですよ!」
 西野が迷惑そうに応じる。
 怪物は操り人形なのだ。
 だから、本体を倒さないことには、何度切り裂いてもしつこく復活してくる。厄介だ。
 身体を取り戻した怪物たちは、再度襲いかかってきた。
 西野がしゃがみ込み、迅速に床に手を付く。
 ブワッと空気が膨れ上がったような感触があった。
 三人と怪物を隔てるようにオレンジの膜が出現した。西野が結界を張ったのだ。
 怪物はオレンジ色の光の前に弾き飛ばされる。実体ではなくても結界は破れないようだ。
「有馬くん!」
「は、はい――」
 唐突に薔薇子に名を呼ばれて、美人は意味もなくびっくりしてしまった。
 慌てて彼女を顧みる。
 瞬間、薔薇子の右手が勢い良く雷師を掠った。
「黒井先生!?」
 美人は驚きに目を丸めた。
 自ら肉体を傷つけるなんて信じられない。
 焦る美人とは対照的に、薔薇子本人は冷静だった。
 皮膚が切れて、鮮血が湧き出している右手首をじっと見つめている。
 その美しい顔には、恍惚の表情が浮かんでいるように見えた。
 一種の忘我状態に陥っている。
 ゴオォォォォォーッッ!
 突如として、視界が紅蓮の炎に染められた。
 二匹の獣が口から炎を噴射し始めたのだ。
 幸い、西野の結界に守護されているので被害はない。
 怪物たちのその攻撃が、薔薇子を現実へと引き戻した。
 彼女は一瞬ハッとしたような表情を造り、それから血の滴る右手を左の掌に添えるのだ。
 直ぐさま掌に血溜まりができあがる。
「今、力を解き放つ」
 低い呟きとともに左手から紫色の光が放出された。
 淡い紫の光は、薔薇子の左手を包み込んでいる。
 掌からは血が消え失せ、代わりに特殊な紋章が浮かび上がっていた。
 掌いっぱいに広がった円の中に六芒星があり、更にその中に五芒星がある。
 シュルッと鞭が一鳴りした。
 それを手にする右手には、もう傷痕がない。
「古の契約に従い、我に力を力を――光の精霊に導かれし者よ、汝の主・黒井薔薇子の名に於いて命ずる。魔に属するもの全てを漆黒の闇へと導け! 出でよ、光魔!」
 唇が呪文を唱え終えた瞬間、薔薇子の双眼が紫色に輝いた。
 同時に狛犬のような化け物の足下が奇妙に歪んだ。
 黒い影が生じ、捩るように怪物の巨体を巻き込んでゆく。
 必死に藻掻く怪物。
 だが、迫り来る闇からは逃れられない。
 追い打ちをかけるように、赤紫の光の渦が闇から飛び出した。
 光の中で、怪物の身体が粉砕される。
 一瞬の出来事だった。
 美人は半ば呆気にとられながら、その光景を目にしていた。
 二匹の獣は、完全に消失してしまったようだ。
「ご苦労様、光魔」
 薔薇子が満足したような声音を《それ》に向けた。
 右が赤、左が紫――翼の形をした光源体。
 その姿を美人も見たことがある。薔薇子が《光魔》と呼ぶものだ。
「流石、薔薇――」
「これはこれは、驚きですね。この世に正当な《光魔》の継承者が存在していたなんて」
 西野の声に、別の声が被さった。
 この部屋に入って来た時に聞こえた声と同じ響きだ。
「そうね。信じられないでしょうね。でも、私は生きている。十七年前、あんたたちが殺し損ねたのよ」
 挑戦的に、薔薇子が言葉を放った。
 彼女の視線の先――三人から僅かに離れた位置に、男が一人立っていた。



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2009.07.21 / Top↑
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